全国自動車交通労働組合連合会はハイタク産業に従事する労働者で構成する労働組合の連合体です。本ホームページは、どなたでも自由に全てご覧いただけます。


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はじめに

2020年3月11日にWHOがパンデミック宣言を発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数(累計)は、全世界で1億7,620万人超、死者は380万人超(6月15日・米ジョンズ・ホプキンス大学発表)に達しています。日本国内においても、感染者数(累計)は、77人超、死者は1万4,000人超(6月15日・NHKまとめ)を数えました。この間、世界各国でワクチン接種が進み、6月15日現在、100人あたりの接種回数が、チリ、イギリスで100回を超え、アメリカ92.9回、カナダ、ドイツ、スペイン、イタリアで70回超、フランス、ポーランド、中国で60回を超えています。日本では、有効な感染防止対策をとれず、迷走を繰り返し、これまで3度の緊急事態宣言を発し、100人あたりのワクチン接種回数でも19.8回にとどまっています。
安倍政権は、2020年7月に第2波の感染拡大期を迎える中、「GoToキャンペーン」を開始し、菅政権になっても積極的にそれを推進したことで感染を地方都市にまで拡大させ、11月から2021年2月までの第3波の感染拡大期を作り出しました。ワクチンの接種でも後れをとり、5月をピークとする第4波の感染拡大期を許し、3度目の緊急事態宣言を発しましたが、その宣言も有効に機能せず、6月20日まで延長される事態となっています。
日本社会は、コロナ以前から安倍政権の下で不安定雇用を増大させ、医療や福祉政策を削り、地方の衰退をよそに都市部への一極集中を進め、2度の消費税増税で消費を冷え込ませ、格差を拡大させて来ました。このことが都市部の市中感染を止められない大きな要因となるとともに、「病床逼迫」の原因となっています。大企業と富裕層を優遇する一方で、「分厚い中間層」を破壊し、貧困世帯を増加させる中、新型コロナが日本の社会を襲い、国民の命と暮らしを日々脅かしながら、医療崩壊、雇用崩壊、交通崩壊の危機をつくりだしているのが現状です。そして今、利権にまみれた東京五輪の開催に固執し、更なる感染拡大に道を開こうとしています。
新型コロナの感染拡大防止は、人流の極端な抑制を要求するため、飲食・宿泊・観光とともに公共交通機関にも甚大な影響を与えています。タクシーの売り上げも2020年4・5月は対前年同月比37%台にまで低下し、その後も感染拡大が起きるたびに50%~60%台に低下を繰り返し、80%台まで回復した月は1月もない状況です(全タク連緊急サンプル調査・全国平均)。
タクシーは重要な公共交通として、市民生活やビジネス・観光を日常的に支え、災害発生時も「移動における最後の拠り所」として、その社会的役割を果たしてきました。コロナ禍においても患者輸送や医療関係者の移動を支え、感染による重症化リスクが高い高齢者の生活交通を支えるとともに、バス路線撤退後のデマンド交通やスクールバス再編後の児童送迎も担っています。重要な公共交通を現場で担うハイタク労働者は、医療・介護・物流・小売等とともに生活維持に欠かせない仕事に従事しているエッセンシャルワーカーとして、存在意義を高めています。コロナ禍の最前線で働くハイタク労働者の命と生活を守るための施策を実行させるために、労働組合の団結をさらに拡大・強化し、長期化するコロナ危機に諦めることなく立ち向かい、活路を拓いていくことが求められています。

Ⅰ.内外情勢の特徴

1.世界情勢

新型コロナウイルスの世界的なパンデミック宣言から1年が経過しましたが、多数の命が奪われ、多くの仕事が失われた1年となり、今なお世界が直面する社会的・経済的ストレスの苛烈さを物語っています。しかし、ワクチンが登場するとともに、未曽有の財政出動が実行されたことにより、予想を超える経済的回復が進んでいます。
米国経済は、2021年中にGDPがコロナ禍前の水準を上回ることが見込まれる一方で欧州や日本ではコロナ禍前の水準に回復するのは2022年に入ってからと予想されています。また、多くの新興国・発展途上国では、中国のGDPが2020年中にすでにコロナ禍前の水準に戻っているのに対し2023年になってもコロナ禍前の水準を回復できない見込みです。
回復の道のりにもワクチンの普及、経済支援の規模、観光依存度などにより大きな差が生じ、コロナ禍での累積損失は、発展途上国が先進国の2倍の損失を被り、極度の貧困に陥った人は2020年に9,500万人も増え、新たに8,000万人が栄養不足になったといわれています。10年前の金融危機は、先進国にとって大きな痛手になったのに対し、コロナ危機は低所得者や新興国・発展途上国に深い傷を負わせています。この差は各国の国内でも生じており、所得格差が拡大する懸念が広まっています。若年労働者、女性労働者、低技能の労働者がより深刻なダメージを受け、自動化が進んだ部門では雇用減少が大幅に進行しました。失われた雇用の多くは戻らず、別の職種での再就職を余儀なくされますが、それが同時に大幅な減収を伴う可能性が高くなっています。また、多額の債務を抱え大規模な資金調達を必要とする国々は先進国よりさらに大きく後退することになりかねません。
パンデミックが続く間は、ワクチンの生産と流通、医療支出を優先させるとともに、打撃を受けた家計や企業に財政支援を優先すべきであり、復興が進むにつれて支援規模を徐々に縮小する場合でも急な打ち切りは避けなければなりません。労働者の再訓練・教育と所得支援に重点を置き、雇用創出を支えるとともに、学習の機会を失った児童等への学習支援を強化することが求められます。
また、世界各国は気候変動の緩和、デジタル化、国際法人課税の刷新、国境を越えた利益移転や租税回避・脱税の抑制に協力するとともに、ワクチンの世界的な格差や生活水準の格差を縮める強力な国際協調を必要としています。



2.国内情勢

政府のコロナ対策は迷走を極め、コロナ禍にも関わらず病床削減に多額の予算をつけて各知事に通知し、コロナ重症者の受け入れ病院に対しても再編整理と病床削減を迫るなど、常軌を逸した対応を繰り返してきました。ワクチンの普及が遅れる中、感染力の強い変異ウイルスの拡大もあり、「医療崩壊」の危機が叫ばれる程に危機的状況を迎え、今年に入り短い間隔での緊急事態宣言の発令を余儀なくされました。
企業活動は、ワクチン普及が進む米中を中心とする海外需要の回復にけん引され、総じて持ち直しつつありますが、防疫措置の再強化の影響を受ける飲食・宿泊・交通等の外出関連業種では企業活動や雇用の回復には時間を要するとみられます。
ワクチンの普及により日本の経済活動が本格的に正常化するのは2022年を待たなければならない状況にあり、2022年半ばには飲食・宿泊などの外出関連業種が本格的に回復し、内需を中心とする自律的な回復力が強まり、GDPがコロナ危機前の水準に戻ることが予想されます。しかし、米中対立の波及を受け、輸出規制が半導体等、特定の戦略分野にとどまらずエスカレートすれば、日本企業の収益環境は悪化します。また、台湾をめぐる日本の政治的言動に中国は内政干渉として反発を強めており、中国国内での日本製品の不買運動や日本への輸出規制などにつながる危険もあります。さらに、ワクチン接種の加速を目指していますが、諸外国と比べて接種に遅れが目立ち、このことが経済の正常化を遅らせ、短期的な経済損失を大きくするだけでなく、グリーン化やデジタル化への投資、期待される産業への労働移動など、ポストコロナで求められる対応も遅れを取り、回復力にも主要先進国との格差が開く懸念があります。
雇用環境は2021年1-3月期の就労者数は、対前年比▲49万人に達しており、内容は業種間の差異が顕著で、度重なる緊急事態宣言の発令により外出関連業種の就労者の回復は大きく遅れています。また、飲食・宿泊・娯楽・製造・小売等の経済活動の割合が低下する一方、専門性と技術が要求される医療・福祉・情報通信の割合が上昇しており、産業間の労働移動の支援も重要です。手厚い所得補償と教育・訓練の支援策が望まれます。
所得環境は雇用環境以上に持ち直しが遅れています。残業代の減少や賞与の減額が続いたことで一般労働者の現金給与は対前年比マイナスで推移しています。特に非正規雇用が多い若年層で所得環境の悪化が大きくなっています。2021年4月に行った民間のアンケート調査で「収入が50%減った」と答えた割合が20~24歳で1割を占め、「30~40%減った」と答えた割合もこの年代で2割に迫り、どの年代よりも高くなっています。また、収入が減少した世帯の貯蓄は大きく減少していますが、収入が「変わらない」または「増加した」世帯では貯蓄が大きく増加しており、コロナ危機下で全体の家計貯蓄は22兆円増えたとみられています。「貯蓄から消費へ」の動きは、ワクチンの普及状況を考えると今年度中は大きな動きとはならないと見込まれます。
医療支援の充実、中小企業支援、雇用対策、最低賃金引上げを大胆に実行し、コロナ禍で大きな影響を受けてきた業種を支え、生活に欠かせない仕事に従事するエッセンシャルワーカーへの支援を実行することが、コロナ危機を乗り越え、日本の安定を取り戻す道です。


Ⅱ.産業動向

1.ハイヤー・タクシーの現状

新型コロナの感染拡大はハイタク産業に大きな影響を与えてきました。タクシー営業収入の推移(全タク連の緊急サンプル調査)は以下の通りです。


緊急事態宣言が全国に発せられた2020年4月・5月の営収は、全国平均で対2019年同月比37%台まで激減し、過去に経験したことのない未曽有の減収となりました。とりわけ観光地の京都では5月に14%を記録しています。
7月には66.5%まで回復しましたが、7月末から開始された「GoToキャンペーン」により感染者が全国で激増し、8月には50%台まで営収が低下しました。その後10月には75%まで回復しましたが、11月から第3波の感染拡大となり、例年タクシー需要が最も多い12月は66%にとどまりました。
2021年1月・2月は2度目の緊急事態宣言が発令され、50%台まで大きく低下しました。3月には65.2%となりましたが、4月から第4波の感染拡大を迎え、3度目の緊急事態宣言が発令され、再び営収が大きく低迷し、5月には52.9%に低下しています。

2.新型コロナ感染症の影響

新型コロナの感染拡大により甚大な影響を受けたタクシー産業は、2020年4月・5月の急激な需要減少で全国的に事業継続が困難な状況に陥りました。国交省から事業継続要請を受け、緊急事態宣言下においても公共交通として営業継続した結果、経営状況が一気に悪化し、多額の融資でしのいでいるのが実態です。利用者が激減したにもかかわらず運行を継続するためには、補償が不可欠ですが、国の対応は全く不十分なものであり、強く批判しなければなりません。
これまで多くのタクシー事業者が倒産・廃業に追い込まれ「交通崩壊」の危機が深刻化しています。そして、事業の統廃合や再編も全国各地で加速しており、高知県の須崎市では全タクシー会社3社が昨年暮れに同時廃業し、商工会議所が新会社を設立して事業を引き継ぐ事態も起きています。
また、需要の蒸発で通常営業がままならず、雇用調整助成金を活用した部分休業をほとんどのタクシー会社が実施し、雇用を辛うじて維持しているのが現状です。また、飲食自粛の影響も大きく、多くの会社で勤務シフトの大幅な変更等に追われました。
長期化するコロナ禍で稼働台数の減少が続くとともに、乗務員の減少が進み、2020年度の東京特別区・武三地区の法人タクシー運転者が4,469人減少しました。この減少数は過去10年間で最大です。
タクシー需要の減少を補うためにスマートフォンアプリと提携する会社・車両数が増加したことや非接触の決済のメリットも要因として、コロナ禍においてもアプリ配車の利用回数は大きく伸びています。
運転者と利用者にとって、安全・安心の輸送機関となるために、タクシーの感染防止対策の強化も全国で取り組まれています。「高性能空気清浄機」をタクシー車内に装備した、「ニューノーマルタクシー」の普及が進んでいます。
コロナ禍によるタクシー需要が減少する中、食事デリバリー事業のニーズが増加し、タクシー事業者による貨物自動車運送事業法によるデリバリー事業への参入が全国で進んでいます。
新型コロナの感染拡大は、タクシー事業を取り巻く環境を一変させました。とりわけ、2019年に3,188万人を数えた訪日外国人旅行者数は2020年には411万人に激減しました。インバウンドを当てにした観光ビジネスは成り立たない状況になっており、今後はインバウンドに頼らない観光事業の在り方を真剣に検討する必要があります。また、路線バス事業も新型コロナにより大きなダメージを受けており、これまで以上にバス路線の撤退が予想されます。地域交通の主力としてタクシーがデマンド交通や通学を積極的に支えていくことが求められます。環境変化は大きな変革を要求しますが、苦しく長いコロナ危機を乗り越え、事業を存続させながら、社会的要請に応える安全・便利なタクシーとして生き残っていかなければなりません。


3.地方自治体によるタクシー支援の拡大とワクチン接種でのタクシー活用

2020年4月16日に緊急事態宣言が全国に拡大され、「補償なき自粛要請」により、全国で飲食・宿泊・交通等の地域産業がダメージを受ける事態となり、国や自治体に支援要請が強まりました。全自交労連も連合・事業者団体・地方議員と連携してタクシーへの支援要請行動を強めました。多くの自治体で「タクシーは市民生活の移動に欠かせない公共交通」との認識が広まり、自治体独自の支援策も全国に拡大していきました。
2020年10月30日現在の自治体によるタクシー支援事業は44都道府県で62の支援事業、397市区町村で413の支援事業が実施されました。感染防止対策への補助、事業継続の支援、利用促進策、デリバリー事業への補助など支援内容は多岐にわたります。北海道の旭川市では「公共交通運転従事者慰労金」を創設し、路線バスとタクシー運転従事者に「1人・2万円」の慰労金支給を決定しました。こうしたタクシー乗務員への直接支援が全国に拡大するよう運動を強化する必要があります。
国土交通省が把握した2021年5月20日時点の自治体によるタクシー支援事業数は、全国で2,551を数え、そのうち、3次にわたる臨時交付金を活用した支援事業数が全体の8割を占め、支援事業の内容は、運行支援、感染防止対策、地域交通体系の整備の順に多くなっています。
2021年2月17日から日本においてもようやくワクチン接種が開始されました。全自交労連は事業者団体とともに、ワクチンの輸送や接種者の送迎にタクシーを活用するよう各地で要請行動を取り組みました。国土交通省は、4月30日現在のワクチン接種の送迎に関するバス・タクシーの活用事例を公表し、国土交通省・地方運輸局として運輸支局を通じた自治体要請を展開した結果、全国307自治体でワクチン接種に関するバス・タクシーを活用する事業が取り組まれました。
ワクチン接種に関するタクシー活用の事例としては、①ワクチン接種者にタクシー券を配布(135地域)、②ワクチン接種者を乗合タクシーで送迎(76地域)、③医療従事者が被接種者を訪問接種する場合にタクシーを活用(6地域)となっています。
ワクチン接種のためのタクシー利用券配布対象者は、接種者全員とする自治体もあれば、移動困難者、要介護者、重度障害者等に限定したり、山間部等の交通不便地域に限定したり、年齢により70歳以上に限定する地域もあります。また、接種のためのタクシー運賃補助の内容も「1人・3,000円まで」や「初乗り料金4回分」とする地域もあります。
また、乗合タクシーの運送ではジャンボタクシーを市が借り上げて接種会場までの往復運送を利用者負担なしで実施する自治体や接種会場までの医療従事者のタクシー送迎や医療従事者へのタクシー券配布を行う自治体もあります。
さらに、自治体の6月補正予算で、タクシー事業の継続のための追加支援として、「タクシー1台につき5万支給などの支援策を再度講じる県も複数あります(岩手県・山形県)。

4.改正タクシー特措法の施行状況

改正タクシー特措法の施行を受け、特定地域及び準特定地域を指定し、適正化と活性化の取り組みが続けられてきましたが、2015年度の最初の指定では、特定地域が19地域、準特定地域が130地域であり、翌2016年度には特定地域が27地域、準特定地域が116地域あったものが、指定期間の満了や地域協議会での指定要請見送りで、年々指定解除が続いています。また、新型コロナでタクシーの危機が極度に深まる要因となった2020年4月の緊急事態宣言発令の前月である3月31日に、札幌交通圏、宇都宮交通圏、埼玉・県南交通圏、京葉交通圏、東葛交通圏、富山交通圏、神戸市域交通圏、大阪市域交通圏、大分市、鹿児島市、久留米市の11地域が特定地域から解除されたことは画一的な運用として批判されなければなりません。2020年4月現在の特定地域は10地域に減少するとともに、準特定地域も120地域まで減少しています。その後も仙台市が5月30日に特定地域を解除され、6月30日には広島交通圏、7月31日には新潟交通圏、長野交通圏、北九州交通圏、長崎交通圏が特定地域の指定期限を迎え、2022年6月30日までには残り全ての特定地域の指定期限を迎えます。
改正タクシー特措法の施行・運用により、全国の日車営収は、2014年度の28,950円から2019年度の31,448円に増加し、時間当たり賃金も特定・準特定地域平均で2014年度の1,148円から2018年度1,278円に改善したと言われていますが、日車営収は規制緩和前の2001年度の水準に回復しておらず、引き続き適正化・活性化の取り組みが全国的に必要となっています。
新型コロナ感染症の影響でタクシーの輸送人員が極端に減少していることを受け、国土交通省は、2020年3月に臨時的な休車を認める特例制度を創設するとともに、2020年の準特定地域の解除を1年間見送る運用を行っていますが、新型コロナ感染症の巨大な影響の前に改正タクシー特措法の限界が鮮明になっています。国土交通省は、①デジタル技術(配車アプリ)の活用を通じた、タクシー需要の新規開拓(一括定低額運賃・変動迎車料金・相乗りタクシーの導入等)、②高性能フィルタによるウイルス除去と車内の空気清浄機能の見える化、③需要の急増減も踏まえた適切な制度運用を上げ、引き続き改正タクシー特措法を運用するとしていますが、「地域限定」「期間限定」の対策では実効性に疑問があり、「全国的」「恒常的」で実効性のある対策をとり、安全・安心の公共交通としてタクシーを再生していくことが求められます。
全自交労連がハイタクフォーラム(全自交労連・交通労連ハイタク部会・私鉄総連ハイタク協議会で構成)として、要請している「タクシー事業法(仮称)」の制定を要求し、①タクシー事業の免許制と5年ごとの更新制、②需給動向判断の復活、③事業の休・廃止の許可制等を柱とする制度を導入し、強力な措置を全国的に実施し、重要な公共交通機関としてのタクシーの安全と信頼を構築していかなければなりません。

5.規制改革推進会議が「ダイナミック・プライシング」の導入を答申

政府の規制改革推進会議は6月1日、菅総理に答申を出し、タクシー関係では、①輸送需要に応じた「ダイナミック・プライシング(変動運賃制)」の導入、②GPSを通じて走行距離・額を算出する「ソフトメーター」の導入、③IT機器を使用して遠隔点呼をできる「IT点呼」の導入を求めました。国交省2021年度に実証実験を行い2022年度以降に実施するとしているが、タクシーはビジネス・観光だけでなく、交通弱者が生活のために利用するものであり、公共交通機関として誰でも安心して利用できる運賃体系でなければなりません。需要による変動幅が極端に大きくなれば、諸外国のライドシェアのように利用者からの苦情やトラブルが多発する危険があります。「ダイナミック・プライシング(変動運賃制)」の導入は、乗務員や利用者の声をしっかり聞き取り慎重に検討しなければなりません。

6.白タク・ライドシェアの動向

東京五輪の開催に向けて、ライドシェア導入の動きが加速されてきましたが、新型コロナの感染拡大と東京五輪の延期を機に導入・解禁の動きは弱まっています。ライドシェアまがいの営業を行ってきた東京のCREWも2019年12月末でサービスを終了するとともに、コロナ禍で人流が滞り、世界中でライドシェア事業が経営を極度に悪化させています。
しかし、竹中平蔵氏は菅政権発足に合わせ「ポストコロナの日本改造計画」を出版し、「スーパーシティではライドシェアもできる」と豪語してポストコロナの社会像を描きながらライドシェアの解禁を狙っています。スーパーシティの事例として、高齢者の通院に「ボランティア・タクシー事業をタクシー事業者自ら廉価に展開」する構想を紹介しています。
2020年5月27日に「改正地域公共交通活性化・再生法」と「スーパーシティ法(国家戦略特区改正法)」がコロナ禍の中で同時に成立し、「タクシー事業者が行うライドシェア(自家用有償運送)」に道を開き、そこに誘導していることに警戒しなければなりません。
また、コロナ禍で「ウーバー・イーツ」等が都市部で急成長し、東京エリアの登録配達員が数万人ともいわれています。「雇用によらない働き方」として労働法の適用を受けず、様々な無権利労働の問題が表面化しています。また、自転車を使った配達時の交通事故も社会問題化しています。トラック運賃の下落で減収となったトラックドライバーがフードデリバリーのギグワーカーに転じる動きも報道されていますが、2020年6月末時点で、労働法の適用を受けない日本のフリーランスは100
人を突破しています。こうした状況がさらに加速する中でライドシェアが解禁されれば、瞬く間にライドシェア車両の台数が激増し、タクシー産業を崩壊させる危険があることを、危機感をもって確認する必要があり、警戒を弱めるわけにはいきません。


Ⅲ.労働条件課題

1.タクシー労働者の賃金・労働条件の実態

厚生労働省は2021年3月末集計した「賃金構造基本統計調査」の結果を公表し、タクシー運転者の2020年推定年収(法人・男女計)は、全国平均で2,996,000円となり、前年(タクシー男性)より579,600円減少し、新型コロナ感染症の影響が大きく影を落とす結果となりました。
全産業男性の推定年収も4,873,000円となり、前年より約13万円低下しましたが、全産業男性とタクシー男女計の格差は1,876,000円で、前年より45万円も格差が拡大しました。
地域別では、前年400万円を超えていた東京(338.1万円)・神奈川(318.3万円)・大阪(358.5万円)が300万円台に落ち込んでおり、新型コロナの感染拡大が顕著だった大都市部での賃金低下が目立ちます。
新型コロナによる需要減少の影響でほとんどの営業所で休業を余儀なくされた結果、労働時間は月間175時間となり、前年より20時間減少しました。
前年に60歳を超えていたタクシー運転者の全国平均年齢は59.5歳に若返りましたが、新型コロナの蔓延を機に高齢運転者が離職した影響が大きいと考えられます。
全自交労連が、2020年12月に行ったアンケートでは、「賃金が30%以上低下した」と答えた組合員が60%を超え、「半分以下に低下した」と答えた割合も27%を占めました。また、休業手当も最低賃金も払われず、「賃金が25万から数万円になった」という悲鳴も多く寄せられているのが実態です。

2.乗務員の感染防止対策の強化と補償の充実

ハイタク乗務員は、新型コロナの感染リスクを日々抱えながら乗務しており、感染対策は乗務員の命と健康を守るうえで最重要の課題です。タクシー車内の高性能空気清浄機の導入は乗務員と利用者の安心・信頼を確保するためにも早期の導入が求められます。
ハイタクの乗務により、新型コロナに感染した場合には、賃金の全額補償と労災認定を求めます。また、家族に感染者が出て、濃厚接触者として保健所から自宅待機を要請された場合には、生活保障と感染防止の観点から特別有給休暇を付与する等の対応を会社に求めます。また、会社の判断で乗務員に自宅待機を求めた場合は、休業手当の支給を求めます。
経営が厳しさを増す中、雇用維持のために雇用調整助成金(コロナ特例)を活用しているタクシー事業者は90%を超えています。休業手当は「平均賃金の100%」をすべての職場で確保するよう全力をあげるとともに、歩合給制度や残業が組み込まれた勤務シフトで働いていることを考慮し、(1カ月すべて休業した場合)総支給額と隔たりのない休業補償を求めます。具体的には、休業補償日額の算定に当たり、総賃金を歴日数で除する現在の算出方法を改め、労働日数で除する方法を採用するよう要求します。

3.雇用の確保と労働条件の維持

コロナ危機により、タクシー事業の継続が困難になる状況が拡大していますが、従業員の雇用を守ることは事業主の最も重要な社会的責務です。経営者は「会社の業績が悪いから」という理由で従業員を簡単に解雇できるわけではありません。一部の従業員に対して整理解雇を行い、他の従業員の雇用を維持して事業を継続する場合は、①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定の合理性、④解雇手続きの妥当性、これら「整理解雇の4要件」にすべて適合しないと解雇は無効となります。
また、事業廃止により全従業員を解雇する場合は、整理解雇の4要件とは別に、①事業廃止の合理性、②労働組合との十分な協議、③再就職の準備のための期間(時間的余裕)、④労働者の収入減少への手当、⑤他社への就職希望者に対する就職活動の援助、という「事業廃止による解雇の5要件をすべて満たす必要があります。さらに、解雇の予告義務や解雇が無効となる人選基準(労組役員を理由とした解雇等)もあります。不当解雇を許さず、労働組合の団結力を発揮して雇用を守ることが求められます。
コロナ危機を理由とした賃金の引き下げ圧力が強まっています。しかし、賃下げや一時金、退職金制度の廃止・改悪は、経営者が一方的に行うことはできません。労働協約で定められた労働条件は、有効期間の定めがある場合には期間内の変更は労働組合の合意なしにはできません。有効期間の定めのない労働協約は労働組合法により90日前に破棄通告ができるとなっていますが、破棄後に経営者が一方的に就業規則を変更して労働条件を引き下げることはできません。コロナ危機による営収減は、歩合給で働くハイタク労働者の生活を極度に脅かしています。多くの離職者が出ている中で労働条件をさらに低下させれば、産業崩壊を招いてしまいます。就業規則の変更による労働条件の不利益変更の合理性について、最高裁は、①不利益変更の必要性、②見返り措置、③不利益の程度、④労働組合との十分な協議、⑤同業他所の状況、という5つの判断基準を示しています。経営責任を明確にさせ、経理公開やユニオンショップ協定を要求し、最高裁の判断基準を尊重した団体交渉を積み重ねて労働条件を守っていくことが必要です。

4.固定給中心の生活安定型賃金の確立

コロナ危機が続く厳しい状況にありますが、ハイタク乗務員は社会生活に欠かせない極めて公共的なエッセンシャルワーカーとして働いています。それに見合った労働条件と社会的地位が確立されなければなりません。
全自交労連が求めてきた生活安定型の賃金をめざし、固定給を中心としたA型賃金の再確立を求めて運動します。具体的には、①基本給に諸手当を付加した固定部分に、稼働額の一定額に対して歩合給を加算する、②歩合給部分は、乗務員同士の競争をやわらげ、労働意欲を維持する観点から適正な「足きり額」と歩合給支給率を設定する。③生活設計を考慮し、夏季・冬季一時金と退職金制度を整備する。④基本給の水準は最低でも地域最低賃金+200円以上とする。⑤適正な定期昇給制度を確立する、等を目指しています。公共交通労働者にふさわしく、若年者や女性にも魅力ある労働条件を確立するために全力をあげます。
さらに、コロナ危機の感染リスクや賃金減少による乗務員の離職が拡大しています。コロナ禍においても重要性を失わない公共交通としてのハイタクを守るとともに、コロナ収束後のハイタク産業に対する社会的要請に応えるためにも労働条件の改善・向上は不可欠であることをしっかり確認して運動を進めます。

5.「出来高払い制の保証給」の周知と罰則付き義務化要求

コロナ危機の中で大幅に歩合給が低下することにより、「出来高払いの保証給」をめぐるトラブルも出ています。労働基準法では、第27条の「出来高払いの保証給」で出来高払い制や請負制で使用する労働者に対し、使用者は労働時間に応じた一定額の賃金を保障することを定めていますが、「一定額」については「改善基準通達(93号通達)」で「通常賃金の6割以上の保証給」を定めることを求めているのみで、通達に法的強制力はありません。使用者に「出来高払いの保証給」を通常賃金の6割以上支払わせるために、すべての職場で「出来高払いの保証給」に関する協定を締結するとともに、就業規則に確実に明記させる必要があります。また、罰則付きの強制法規である労基法27条に生活を確保できる金額を踏まえた「一定額」を具体的数値として明記させる必要があり、厚生労働省や支持政党への働きかけを強めます。

6.有給休暇の確実な取得、雇用形態による差別禁止、長時間労働の是正

年10日以上の有給休暇が付与されている労働者に対し、年5日以上の有給休暇を取得させることは使用者の義務です。コロナ危機により、休業せざるを得ない職場でも、休業日と別に有給休暇を確実に取得させなければなりません。また、会社から休業日とされた日でも、労働者が希望すれば、有給休暇を取得することができ、使用者がこの有給休暇の権利を制限することは許されません。
正社員と有期雇用契約社員(定年後の再雇用者を含む)との不合理な差別は禁止されています。職務内容と責任の程度において差がない「正社員と同じ業務」を行う有期契約社員を雇用形態の違いだけで、労働条件に不合理な待遇格差を設けないよう労働組合として点検し、「同一労働・同一賃金」を職場で推進し、労働組合の組織化につなげます。また、近年高齢の嘱託社員の比率が高まっており、①65歳(事情により70歳)までの定年延長、②同じ勤務シフトで働く場合の「同一労働・同一賃金」、③高齢乗務員の健康に配慮した勤務シフト、④健康管理体制の充実、⑤雇用年齢上限(75歳まで等)について検討していきます。
2019年4月1日から「働き方関連法」が施行され、自動車運転業務については改正法施行の5年後の2024年4月1日より時間外労働の上限規制として、年960時間の規制が適用されます。この上限規制の確実な遵守とともに、時間外労働上限規制の一般則の適用を求めて運動します。

7.法令違反の一掃と悪質事業者の排除

この間、改正タクシー特措法の成立時に国会附帯決議の完全履行を求めて運動し、一定の改善を実現してきましたが、ハイタク産業全体を見ればまだまだ不十分であると言えます。①累進歩合給の排除、②固定給と歩合給のバランスの取れた賃金体系の再構築、③事業に要する経費の運転者負担の見直し、④過度な遠距離割引の是正、⑤過労防止対策、これら国会附帯決議をすべてのハイタク職場で完全履行するために引き続き努力することが求められます。とりわけ、累進歩合給は長時間労働やスピード違反を極端に誘発するおそれがあり、交通事故の発生も懸念されることから、「改善基準通達(93号通達)」で禁止され、労働行政も廃止の指導を強化している事項です。
コロナ危機前の2019年における「自動車運転者を使用する事業場に対する監督指導、送検等の状況」では、ハイタクの労働基準法違反率はトラック、バスを上回り、実に91.3%を占める異常な状況です。主な違反事項は、労働時間が49.8%、割増賃金が33.4%、休日が4.3%となっています。また、改善基準告示違反率は、トラック・バスより低くいものの37.8%を占め、主な違反事項は、最大拘束時間が26.0%、総拘束時間が21.1%、休息期間が6.8%となっています。コロナ危機前でこれほど悪い状態にあるということは、コロナ危機の渦中では、過去最悪の状態を作り出していることが容易に予想されます。コロナ危機で営収減少が長期に続き、経営の困難は深まっていますが、確信犯的に法令を無視し、労働者を犠牲に生き延びようとする悪質事業者を許してはなりません。
現在、コロナ危機が深まり長期化する中で、最低賃金違反は拡大し、休業手当の不支給も多くの地域で問題になっています。すべての職場で法令違反の点検活動を強化するとともに、地域における違反事業者の監視・摘発を取り組み、厳しい中まじめに関係法令を遵守する事業者が、経営困難を理由に違反を繰り返す事業者との間で公正な競争を阻害され、「悪貨が良貨を駆逐する」ことにならないようにしなければなりません。また、一部のタクシー事業者団体が「国から事業継続要請を受けて運行しているタクシー事業を最低賃金の適用から除外するべき」と主張していますが、これは労働者の生活をかえりみず、経営者の社会的責任を放棄する暴論と言わなければなりません。コロナ危機において国や自治体から「生活に欠かせない公共交通」として認知され、事業継続支援や雇用調整助成金を受けていながら、タクシー業界の法令遵守のモラルを問われる事態は、タクシーの社会的信頼を失墜させる由々しき事態です。公的支援の拡充や地域住民の生活交通確保のための政策を今後も前進させるために、タクシー経営の遵法精神の退廃を絶対に許してはなりません。

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