全国自動車交通労働組合連合会はハイタク産業に従事する労働者で構成する労働組合の連合体です。本ホームページは、どなたでも自由に全てご覧いただけます。


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Ⅰ.ハイタク産業の動向

1.ハイヤー・タクシーの現状と新型コロナの影響



全国ハイヤー・タクシー連合会がまとめているタクシー営業収入サンプル調査を見ると、新型コロナ感染症が拡大していた2022年1、2月はタクシー需要も落ち込み、特に2月は、全国平均でコロナ前の6割に満たない厳しい状況でした。その後、3月21日にまん延防止等重点措置が全面解除されて以降、タクシー需要はやや持ち直しつつあります。過去最大の感染爆発となった7月も、行動制限がなかったためか、昨年・一昨年より営業収入の減少は小幅に止まりました。ただ、テレワークの定着など、コロナ禍での生活様式の変化によって、需要が、コロナ前と同じ水準まで戻るかどうかは疑問視されています。
国土交通省の統計では2020年2月から2022年2月までの間に、貸切バス216社、法人タクシー75社がコロナを理由に廃業しました。
タクシーの輸送人員は、2006年度の19億4110万人をピークに減少を続け、2019年度には12億2841万人となっていましたが、2020年度はコロナ禍の影響で7億5182万人まで急落し、ピーク時から約61%減少しています。運送収入は、2001年度の1兆9338億円をピークに2019年度の1兆3666億円まで右肩下がりに減少を続け、コロナ過の2020年度には8406億円となりました。日車営収は、2001年度の3万951円以降減少を続け、2009年度には2万6006円まで低下しましたが、以降回復に転じ、改正タクシー特措法が施行された2014年度は2万8950円、2018年度は31,634円まで回復していましたが、2020年度は2万4414円へと急減しています。
運転者の減少は深刻で、法人タクシー乗務員数は2020年までの10年間で平均して年間約1万1000人ペースで減少してきましたが、コロナ禍では営収の低下や感染への恐怖から離職が加速し、2020年4月~21年3月末の1年間で2万1177人が減少しています。全国の法人タクシー乗務員数は2009年度の37万6399人から減り続け、2020年度は24万494人となりました。平均年齢は2021年6月の時点で60.7歳となっています。
乗務員の減少により稼働台数も減少したため、1日1車当たりの営業収入を押し上げている側面もありますが、地域によっては台数不足でアプリ配車などの需要を取りこぼしているケースも増えています。


2.運賃改定 全地域で早急に実施し、賃上げを

全国各地でタクシー運賃改定に向けた機運が高まっています。歩合給中心の賃金制度の下、コロナ禍でどん底まで落ちたタクシー乗務員の収入と、物価高を考えれば、全ての交通圏で一刻も早く、最低でも10%を超える増収率の改定を行う必要があります。同時に、運賃改定による増収分は確実に賃金の向上に反映させなければなりません。
東京特別区・武三地区の運賃改定では国交省から14.24%という改定率が示され、順調にいけば11月には実施になる見込みです。また申請から2年も待たされ続けてきた新潟A地区では8月25日、ついに10.59%の改定率が公示され9月24日から実施されることが決まりました。ほか岩手県A・B地区や名古屋地区など全国13地域で運賃改定に向けた動きが進んでいます。
7月末には、国土交通省から、コロナ禍の需要減少を加味して、改定率を審査できる新基準が示されました。従来の基準より、高い改定率を実現できるとされています。
8月以降の申請では、新基準を用いて改定率を計算できるようになりますが、早くも8月3日に広島A地区、8月25日に金沢地区で改定申請が出されました。広島A地区は、2020年2月に運賃改定を実施したばかりですが、当時の改定率は3.1%と不十分なものでした。現状の物価高とハイタクの低賃金を考えれば、最後にいつ改定したかは関係なく、適正な運賃となっていない全ての地域で運賃改定の実施が必要です。
運賃改定の最大の目的は、労働者の待遇改善です。路線バスでは一般産業労働者との賃金格差の是正分を運賃の原価に組み込めるよう制度が改正されました。タクシー労働者と一般産業労働者の賃金格差を解消するためには、ハイタクの運賃改定でも、増収分を確実に、最優先で、賃金の向上に振り向ける仕組みが必要です。A型賃金では、もちろんですが、B型、AB型賃金においても「オール歩合だから自動的に反映される」という説明では足りません。一部の事業者からは、すでに運賃改定を機に歩率の引き下げをもくろむ動きが起きていますが、このような行為を許しては未来永劫、ハイタク業界の人材不足は解消せず、運賃改定の意義そのものが消滅します。
また、8月25日に新運賃が公示された北九州地区では、13.05%の値上げをしながら、運賃原価における運転者人件費をほとんど増額せず、55%台の異常に低い人件費比率を維持しました。このような運賃改定には全く意味がなく、許しがたい行為です。運賃改定においては、エッセンシャルワーカーに相応しいあるべき姿の固定的な人件費を基にして原価を算出し、確実に賃金・労働条件向上が担保されるような仕組みこそ必要であり、利用者に負担を強いる以上、適切な人件費の確保は絶対に譲れない一線です。
国交省自動車局は2019年12月に通達を発し、タクシー事業者団体に対して、次の2点を指導しました。
①「運賃改定実施後は、各事業者において適切に運転者の労働条件の改善措置を講ずること。その際、運賃の障害者割引など事業に要する経費を運転者に負担させる慣行がある場合には、見直しを図るよう留意すること」
②「運賃改定の認可又は届出後、運転者の労働条件改善についての考え方を利用者に対して積極的に表明するとともに、運賃改定実施後の然るべき時期において、運転者の労働条件の改善状況について、自主的にその実績を公表すること。その際、賃金水準のみならず、実質的な労働者負担の軽減や手当て類の創設、車いす利用者・訪日外国人旅客等への対応に係る乗務員の研修等これに関連して講じた措置についても併せて公表すること」
そして、各地方運輸局は、事業者団体が労働条件の改善について公表した結果を見て、それが運賃改定の趣旨を逸脱すると認められた時には、事実関係を公表し指導することになっています。
しかし、タクシー事業者団体つまり各県のタクシー協会は、運賃改定後、まともに各社の賃金体系・労働条件を調査し、改善状況について公表しているでしょうか。全自交が確認したところ、通達が出た後、現在までに31都道府県の58運賃ブロックで運賃改定が実施されていますが、労働条件の改善状況を公表したのは、佐賀と大分のタクシー協会のみでした。
公表していない協会の多くが、コロナ禍の特殊な状況を理由にしているようですが、国の通達をいつまでも無視する姿勢は許されません。
そもそも協会が、身内のタクシー会社に対して客観的で踏み込んだ調査を行えるとは考えがたく、経営者団体に調査・公表をまかせている制度は機能しているといえません。行政と労働組合も参加して賃金・労働条件の改善を確認する仕組みが強く求められます。
また、現行の運賃制度は「7割ルール」によって申請までのハードルが極めて高く、10年、20年も据え置きという地域が珍しくありません。さらに申請から実施まで1年以上の期間を要するというスピード感の遅さも課題です。


3.LPガス高騰で国が支援も、3割の事業者が申請せず

コロナと並ぶ不安材料となったのが、燃料費の高騰です。ガソリンに対しては価格上昇を抑えるための補助金ができた一方、LPガスに対しては何の支援もなかったため、昨年末、業界労使は強く対策を要望。その声に応え、国土交通省はタクシー事業者向けのLPガス高騰対策の補助金を創設しました。
1月27日~3月31日までの第1期補助は、補助金単価も低く、LPガスタクシー1台当たりの支援金額は最大でも4478円という物足りない額でしたが、4~5月分の第2期では補助単価や仮定の走行距離が増え、1台当たり最大1万8217円、6~7月分でも同1万8630円と、それなりの金額になりました。12月末までは継続される予定で、9月分までに100億円超、10~12月分で70.5億円の予算が確保されています。タクシー事業のみを対象とした補助金にこれだけの予算がつくことは異例です。
経営者はこの補助金の収入を、適切に労働者に分配しなければなりません。春闘交渉時は、多くの職場で「燃料高騰で厳しい」という経営者側の主張が聞かれましたが、これだけの補助が出る以上、もうその言い訳は通用しません。国が補助をする目的は、「公共交通を維持するため」であり、歩合給で大幅な賃金低下に苦しんできた乗務員の待遇を改善しなければその目的は果たされません。
このLPガス補助は、過去に例がないほど申請が簡素化されており、LPガス車を保有している事業者であれば、もれなく受け取れるような内容になっています。しかし信じられないことに、1期、2期の補助では全国ハイヤー・タクシー連合会加盟社のうち、約3割が申請を行いませんでした。LPスタンドの閉鎖で全車をガソリン車にした会社もありますが、未申請3割は多すぎます。「経営が厳しい」と言いながら補助金の申請すらしない経営者は、怠慢・不誠実といわなければなりません。
また、この補助金は申請のスピード感を重視したため、全国一律で同じ計算式が適用されました。その効果は大きかった一方で、地域の特性や車両の種類によって不公平になっている点もあります。
例えば、交通圏の範囲が広く、ほぼ駅付けの仕事がない沖縄本島は空車での走行距離が全国でもトップクラスに長く、毎日1台当たり22~24ℓのLPガスを使用しています。しかし、補助金の計算に使う「LPガス平均使用量」は第1期で10.7ℓ、第2期、3期で14.2ℓとなっているため、実態に即していません。ハイブリッドで燃費の良いジャパンタクシーと、クラウン・コンフォート系の車両ではLPガス使用量に大きな差があることも事実です。全自交労連では国に問題点を伝えて制度の改善を求めてきました。全国一律の基準は変わらなかったものの、第2期からは平均使用量自体が上方修正され一定の改善をみたところです。
同時に、地方自治体への要請行動を通じ、独自の燃料高騰支援を引き出した地連本もあります。特に、今夏は岩手県や神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県など府県単位で、1台あたり数千~数万円の燃料高騰補助制度が実現した地域が目立ちました。「要求しないものは実現しない」の精神で、自治体要請に取り組みましょう。


4.放棄された需給調整。機能不全の改正タク特措法

改正タクシー適正化・活性化特別措置法は、需給調整という面でほとんど機能不全に陥りかけています。昨年11月、38地域が特定地域の指定基準を満たしましたが、事業者側が「不同意」を決めたことで、実際に指定にいたる地域は一つもありませんでした。特措法、改正特措法は労使が一体となって成立させた法律にもかかわらず、タクシー事業者自らが法の趣旨を踏みにじったことは強く糾弾されなければなりません。
事業者側の本音は「準特定地域で新規参入が防げればいい。特定地域になって減車や営業制限はしたくない」というところかもしれませんが、それは身勝手と言わざるをえません。改正タクシー特措法の施行・運用により、全国の日車営収は、2014年度の2万8950円から、コロナ前の2019年度には3万1448円まで回復していました。コロナ禍で極端に需要が減少し、その回復がいつになるかもわからない以上、引き続き需給調整を進めて日車営収を上げ、乗務員の待遇を向上させることが、タクシー産業全体の将来にとって絶対必要な課題です。タクシー特定地域・準特定地域協議会が書面開催ばかりとなり、議論が行われていないことも大きな問題です。改正タクシー特措法が機能しないのであれば、かつてタクシー事業の「免許制」と3年ごとの「更新制」を掲げた「タクシー事業法案」のように、より強力な需給調整の仕組みが必要となります。
現在はコロナ禍での特例休車制度を使い遊休車両を休車させている事業者が多くみられるものの、この制度が利用できるのは2024年3月までです。それまでに復活させなかった車両は減車扱いとなるルールですが、その機会に稼働するあてのない遊休車両は減車してしまい、需給調整を前に進めるべきです。
また、特定地域計画に従わず、減車も営業制限も実行しないアウトロー事業者の存在も
大きな問題です。国土交通省に対しては、そのような開き直りを許さず、法で定められたとおりに「勧告」や「命令」を発し、従わない場合は処分するよう厳格な対応を求めます。


5.ダイナミックプライシング検討の動き

国土交通省は7月に事前確定変動運賃(ダイナミックプライシング)の実施に向けた検討会を立ち上げました。検討会には交運労協のハイタク部会長として、全自交労連の溝上泰央中央執行委員長が参加。2023年初頭までに複数回、導入に向けた議論が行われることとなっています。
ダイナミックプライシングは需要が多い時は運賃を高く、少ない時は安くする制度で、海外ではライドシェアが導入。国内では、昨年末にアプリを使った事前確定運賃の配車に限定する形で実証実験が行われました。規制改革推進会議が変動運賃制度の推進を求めていることもあり、実施が検討されています。
しかし、運賃が大幅に変動することは、誰もが利用できる公共交通機関として不適切であり利用者に混乱と不信を招くだけでなく、単なる安売りになってしまう危険性もあります。全自交労連としてライドシェア的な変動運賃に反対の姿勢を表明してきました。
こういった懸念は、行政側にも事業者側にもあり、実証実験は、配車アプリを使って事前確定運賃を選択した場合にのみ、変動制を導入する限定的な方法で行われ、変動する幅も2割増し~1割引きに制約し、最終的な平均額が公定幅運賃の枠内におさまるようにするという条件で行われました。
しかし、だからと言ってダイナミックプライシングへの不安が消えたわけではありません。
実験には2つのアプリ「GO(ゴー)」と「Uber(ウーバー)」が参加しました。「GO」は平日午前5時~午前9時59分までは1割増し、午前11時~午後2時59分までは1割引きという明快な方法で実施し、最終的な平均額も公定幅運賃の枠内に収まりましたが、一方で「Uber」は海外のライドシェアで行っているのと同じ方法で需要に応じて、リアルタイムで運賃が変動する方法で実施。すると、最終的な平均額は公定幅よりもかなり安い 金額となり、実験後に行われた乗務員へのアンケートでも7割以上が、導入に反対する結果となりました。
このように、変動運賃は安売りに利用されてしまうおそれがあります。そもそも、同じ地域で変動運賃を導入しているタクシー会社A社と、導入していないB社が混在することになれば、運賃が安いエリア・時間帯はA社を選び、高い時間帯・エリアではB社に乗るという消費者の行動が容易に予想できます。高い時間帯でも利用者が乗車してくれるような仕組みがない限り、単なる安売りにしかなりません。その一方で、毎週きまって通院にタクシーを使う高齢利用者には、ただただ混乱を招き、乗務員や配車係がクレーム対応に追われて、公共交通としての信頼を損なうという事態も懸念されます。
検討会においては、こういったデメリットをきちんと踏まえ、そもそも導入するメリットがデメリットを上回るのか、慎重な議論が求められます。タクシーの運賃制度が、公定幅・総括原価方式・7割ルール・運輸局の審査など極めて厳格なルールで規制されていることの意味は、公共交通として利用者に対し適切な運賃でサービスを提供することにあります。ダイナミックプライシングの導入によって、この原則がないがしろになることがあってはなりません。


6.タクシー業界を狙う「脅威」

◆ライドシェア

このところ、国内でのライドシェア(白タク合法化)をめぐる動きは小康状態にあるように思えます。しかし、「競争」や「規制緩和」そして「(国民が)身を切る改革」が大好きな日本維新の会は、参議院選挙に向けた公約でも「ライドシェアや民泊普及の障壁となる規制を撤廃し、シェアリングエコノミーを強力に推進します」と明記。ライドシェア推進派がまだまだ諦めていないことを印象づけました。
2025年万博をひかえる大阪府・大阪市は、2022年4月に正式に「スーパーシティ型国家戦略特区」の指定を受けました。特区の内容について、2021年10月時点の提案資料では、ライドシェア・貨客混載の自動運転・空飛ぶタクシーの実現化を目指すと記載されています。しかし、正式に指定を受けた後の2022年9月に公開された「大阪府・大阪市スーパーシティ構想 全体計画・骨子案」では、ライドシェアに関する記述のみが削除されました。本当にライドシェアの実施を取り下げたのか、あるいは水面下でまだ進行しているのか、警戒を緩めずに注視していく必要があります。
世界的にみても、ライドシェアを水際で阻止している日本は例外的な存在です。ライドシェアが浸透した海外では、安全性や働き方の面でありとあらゆる問題が発生し、各国政府が規制を強化、労働組合もギグワーカーの組織化に取り組む流れとなっています。こういった海外でのマイナスの情報を共有しつつ、日本は、同じ轍をふむことがないよう、引き続き労使一体でライドシェア阻止の闘いを継続していかなければなりません。
また、アメリカでは、コロナ禍でライドシェアのドライバーが大幅に減少。ドライバー不足に悩んだUberは方針を転換し、タクシーとの提携を進める方向へ舵を切っています。結局、ギグワーカーに頼るライドシェアは、安定運行が不可能で、公共交通とは成りえないことの証明といえます。
そんななかUberJapan社は、米軍関係者の多い横須賀市で6月よりタクシー配車を開始。横須賀市内で行われた記者発表会に、地元選出の自民党・小泉進次郎衆議院議員が出席、同じく神奈川県選出の自民党・河野太郎衆議院議員がビデオメッセージを寄せるなど、Uberが自民党有力議員に強い影響力を持っていることが改めて示されました。違法性のないタクシー配車であったとしても、日本でUberが地盤を強化していくことを強く警戒しなければなりません。

◆定額乗り放題の拡大 

定額乗り放題サービスの攻勢が激化しています。「mobi(モビ)」を運営してきたウィラーは、4月にKDDIとの合弁会社「Community Mobility(コミュニティモビリティ)」を設立。地域を名指しして全国への拡大を表明し、三井物産やイオンタウン、吉本興業、イーオンなどとの提携も明らかにしました。また大阪メトロ(旧・大阪市交通局)も、大阪の4つの区で定額乗り放題のAIオンデマンドバスを運行し、2025年の大阪万博までに市内全域への拡大を目指しています。
東京都渋谷区では、道路運送法21条に基づくモビの実証実験の期間満了にともない、4条許可での本格運行を計画して、6月23日に第1回地域公共交通会議が開かれました。しかし、バス・タクシー業界労使の猛反発によって、報告事項すら終了せず、会議は継続協議に追い込まれ、ひとまずはモビの本格運行を阻止しています。
また全自交労連は、実証実験が行われている大阪市や東京都豊島区、秋田県大館市でも、モビの採算性のなさや、労働環境と安全性への懸念を訴えています。バス・タクシー業界の労使が連携して、地域公共交通会議の場などで主張し、採算性と安全性に問題のある定額乗り放題を阻止していかねばなりません。
すでに全自交しんぶん(2022年5月15日付)で紹介した通り、全自交労連本部は大阪でAIオンデマンドバス、東京でモビに乗客として乗車し、その問題点の多さを痛感しました。一つ目は、月額5000円または1回300円という料金設定はどう考えても採算が取れないこと、二つ目はその略奪的な運賃で都市部を狙い撃ちにして運行し、既存の公共交通の需要を脅かすこと、三つ目は、少ない台数で多くの乗客の需要に応じるシステムのため、常にAIの指示する不規則な運行を強いられ、まったく乗務員に休憩する余地がなく過労を招くことです。
今はまだ実証実験として小台数での運行ですが、この仕組みのままで本格運行を始めれば、資本力を生かした安売りで地域を荒らすだけ荒らして既存の公共交通を廃業に追いやった上で、データ収集などの目的を果たせば無責任に撤退して地域住民の足を失わせるといった、暗い未来が容易に想像できます。安全性にも重大な懸念があり、実証実験で止めなければなりません。また定額乗り放題で働く場合に乗務員の賃金がどうなっているのかも問題です。固定給なのか歩合給なのか。売り上げを定額で出し、それに通常のタクシー乗務と同じ歩率を掛けて賃金を出している事例もありましたが、労働の内容に照らして適切か否か、賃下げになっていないかもチェックされなくてはなりません。
国土交通省の総合政策局地域交通課は「共創モデル実証プロジェクト」という補助事業に、秋田県大館市と香川県三豊市で行われるモビの実証実験を選定しました。税金で運行事業費の3分の2(上限2000万円)が補助されることになりますが、モビの価格設定は「共創」どころか「低価格競争」そのものであり、大いに疑問です。
7月12日には、大阪市平野区で運行中のAIオンデマンドバスで、予約の時間に間に合わないことに焦った乗務員が道路を逆走するという事案も発生しました。働く人間を置き去りにして効率化を追い求めれば、このような事故は防げません。
一方で、定額乗り放題の全てが否定されるわけではありません。静岡市では、7月1日より、市内の一部エリアの定額乗り放題「タク放題」の実証実験が始まりましたが、その内容は、普通に運行しているタクシー車両が、閑散時間帯の午前10時~午後5時まで乗り放題に対応し、料金も月額1万円(65歳以上は8千円)というもの。モビや大阪のAIオンデマンドに比べ、運用面でも料金面でも持続可能性を感じさせる設定です。
本当の意味で住民の足となり、既存の公共交通とうまく両立できる定額乗り放題であれば、反対する理由はありません。

【モビの全国拡大】

◎サービス提供中エリア
東京都渋谷区、東京都豊島区、愛知県名古屋市千種区、大阪府大阪市北区・福島区、京都府京丹後市

◎新規拡大検討中エリア(公表されているのは一部のみ)
北海道:室蘭市、根室市
東北:秋田県大館市
北陸信越:新潟県佐渡市
関東:千葉県旭市、東京都港区
中部:三重県明和町
近畿:大阪府富田林市、奈良県 (奈良公園周辺、天理市など)
四国:香川県三豊市、香川県琴平町  

◆新サービスは事後検証こそ必要

これら以外にも、タクシー相乗り制度を使って、空港や町中での相乗り利用をマッチングする「ニアミー」や、様々な乗合タクシーサービスなど、タクシー業界を巻き込んで、毎年いくつもの実験的な新サービスが登場しています。また随伴車に代わって電動バイクを使い、一人で運転代行類似サービスを行う「一人運転代行」といったものも報道されています。
こういった新サービスは、立ち上げ時のみいつも、大きく取り扱われますが、実際にはほとんど定着していません。こういった目新しいサービスには、国や自治体の助成金が使われていることも多いため、行政もメディアも新サービスの「その後」を検証し、失敗の事例から学ぶことが求められます。


Ⅱ.ハイヤーの現状と課題

1.ハイヤーの近況

バブル期の1989年頃には東京都特別区・武三地区のハイヤー運送収入が年間1千億円を超え車両稼働率80%、実車率96%の高率を保っていましたが、その後のバブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災といった社会情勢の中で企業が経費削減を進める中、2013年には運送収入が330億円を割り込み、稼働率・実車率ともに60%前後まで落ち込みました。
2014年、改正タクシー特措法の施行に合わせた国土交通省の告示により、2時間以上もしくは1日以上を単位として専属契約を結び常時運送を提供できる契約を結んで運行するものを都市型ハイヤー、それ以外をその他ハイヤーとして分けられ、その他ハイヤーはタクシーと同様に新規参入を原則認めないこととする一方、都市型ハイヤーは台数規制の範囲外となりました。
これにより、2020東京オリンピック・パラリンピックや訪日観光客のインバウンド需要の増加を見込んだ新規参入事業者や既存タクシー事業者は都市型ハイヤーとして新規許可を受けたためハイヤー事業者数が増加。関東運輸局調べの東京特別区・武三地区の資料によると2017年96事業者2764台だった登録数が2019年には161事業所3386台と激増しました。しかし、コロナ禍により2020年には168事業所3154台と車両台数は減少の方向に向かっています。
事業者数と車両数の増加により、ダンピングが急速に既存各社の利益を圧迫してきたため、2018年には、消費税改定を除けば23年ぶりとなる一般乗用旅客自動車運送事業(ハイヤー)の自動認可運賃の値上げ申請を56社が行い、2019年2月22日に自動認可運賃が関東運輸局より公示され2019年4月1日より実施されました。しかし、現在のところ運送収入減少に歯止めが掛かっていない状況です。ハイヤーから白ナンバーの請負業(自家用自動車管理業)にシフトしている顧客も多く、ハイヤー会社の運送収入を支えていますが、緑ナンバーのハイヤー運送収入の下落を補うまでは至っていません。
労働組合としては2019年6月29日に成立した「働き方改革関連法」で残業時間の上限規制が導入され残業時間の短縮による所得の減少が予想される為、時間単価の値上げ交渉を顧客企業との契約更新時に提案するよう会社側に要求してきました。これにより既存顧客企業との値上げ交渉も進み令和に入り利益率も徐々に改善されつつありました。しかし、2020年以降はコロナ禍による政府の人流抑制策によって大きな打撃を受け、会社役員や社員のリモートワークやイベント行事の減少、夜間や土日の接待仕事の激減により運送収入は大幅に悪化。会社を廃業する業者やインバウンド需要の低下から休眠する業者も出てきています。

2.ハイヤーの現状

新型コロナ感染症の状況は、2021年7-8月の第5波が収束し、9月より一段落したため、年末にかけて需要が回復して営業収入も戻りかけていました。しかし、年明けの2022年1月9日よりまん延防止等重点措置が再度発出されたことにより、企業や学校関係のイベントが中止され、深夜残業や土日公出の仕事が激減し、乗務員の給与が大幅な営業収入低下によるダメージを受け離職者も増加しています。
また7月以降は、感染力の強いオミクロンの変異株の第7波の蔓延により、営業所の事務所や乗務員控室でクラスターが発生し感染する乗務員も増え、事業所によっては配車に影響する事態も出てきています。


3.ハイヤーの課題

(1) 雇用・労働条件改善の取り組み

1.時間外労働時間の順守と魅力ある賃金体系の構築
働き方改革関連法の施行に伴い、2024年4月以降は自動車運転業務についても時間外労働協定の延長時間は、1か月45時間、1年360時間以内とし特別な事情がある場合でも最大年間960時間が上限となり、自動車運転者改善基準告示の改正も2024年4月施行に向けて議論されています。2023年4月からの時間外労働月60時間以上5割増し賃金支給への対応も含め、効率的な賃金体系構築に向けた労使交渉の期限が迫っている状況です。
ハイヤー各社は基本給が低く、残業手当・歩合給の比重が高い賃金体系をいまだに採用しているところが多く、時間外労働上限規制はハイヤー乗務員にとって死活問題であり、高い給与を得ている乗務員の離職の上昇も予想されることから、賃金改定を労使で丁寧に協議し、「アフターコロナ」でも魅力ある産業となるような賃金体系を構築していかなければなりません。

2.65歳までの定年延長と70歳までの勤務延長者への「同一労働同一賃金」の実現
65歳からの年金受給開始時期にあわせ定年を無条件に65歳に延長することが必要です。また、年金支給開始時期を70歳までに延長を希望した労働者に対しシフトの配慮と待遇の維持を求めます。

3.健康管理の充実
乗務員や、請負として顧客先企業で働く労働者の健康管理について、以下の項目を重点に、各労組で管理条件を討議し会社側と交渉します。
・乗務員1人1人の健康状態の徹底管理と改善指導
・ワクチン接種の補助金の拡充
・会社負担による脳MRI検診実施の交渉
・コロナ感染対策のシフトの提案と派遣、請負先の待機所の環境改善

(2)ハイヤー労組の組織拡大

今までハイヤー労組は東京地連の加盟単組の支部を中心に親睦・意見交流を重ねてきました。今後は神奈川地連・埼玉地連・千葉地連をはじめ、ハイヤー職場が存在する全国の地連との意見交換も行い、未組織労働者に対する組合結成を呼びかけ、全自交への結集をよびかけてゆくことを目指します。


Ⅲ.ハイタク産業の労働問題

1.タクシー労働者の賃金・労働条件の実態

厚生労働省の「2021年賃金構造基本統計調査」によれば、タクシー運転者の2021年推定年収(法人・男女計)は、全国平均で280万4000円となり、前年より19万2000円減少、新型コロナ感染症以前と比べれば77万1800円もの極端な減収となっています。平均年齢も一気に1.2歳上昇し60.7歳となりました。
全産業平均とタクシーの年収格差は208万9100円で、前年より約20万円も拡大しました。男性に限定すると格差は265万9100円に達し、ほぼ倍の開きがあります。コロナ禍で年収格差は拡大する一方となっており、ハイタク労働者があらゆる産業の労働者の中でも特にコロナの影響を大きく受けたことの証明となっています。この状況を放置すれば、職業としての魅力は失われる一方であり、事業者そして国や地方自治体は公共交通を守るため、一刻も早く賃金改善に取り組まなければなりません。
全自交労連が、2021年12月に行ったアンケートでは、賃金が30%以上低下した組合員が65.2%を占め、そのうち「半分以下に低下した」と答えた割合が15.3%に達しています。また、11.8%は「最低賃金が払われないときがある」と答え、休業手当についても「平均賃金の10割」と答えた人はわずか18%、4割以上が平均賃金の6割かそれ以下という不十分な水準でした。


2.雇用の確保と労働条件の維持

今後は職場と雇用、賃金・労働条件を防衛する闘いが極めて重要となります。現時点でもコロナを理由に廃業したタクシー事業者は75社に上りますが、雇用調整助成金特例の終了や、特例融資の返済といった事態が本格化すれば、倒産・廃業はむしろこれから加速する可能性があるためです。会社の財務状況について常に情報を収集し、事前に対策や準備をしておかなければなりません。収益性を高めるため、労働者側も配車アプリの操作など今までにない労働を求められる場合もありますが、労働者としての責務を果たし、胸をはって経営者と対峙していくことが求められます。

【整理解雇の4要件】
従業員の雇用を守ることは事業主の最も重要な社会的責務です。経営者は「会社の業績が悪いから」という理由で従業員を簡単に解雇できるわけではありません。一部の従業員に対して整理解雇を行い、他の従業員の雇用を維持して事業を継続する場合は、①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定の合理性、④解雇手続きの妥当性、これら「整理解雇の4要件」にすべて適合しないと解雇は無効となります。

【事業廃止による解雇の5要件】
事業廃止により全従業員を解雇する場合は、整理解雇の4要件とは別に、①事業廃止の合理性、②労働組合との十分な協議、③再就職の準備のための期間(時間的余裕)、④労働者の収入減少への手当、⑤他社への就職希望者に対する就職活動の援助、という「事業廃止による解雇の5要件」をすべて満たす必要があります。さらに、解雇の予告義務や解雇が無効となる人選基準(労組役員を理由とした解雇等)もあります。不当解雇を許さず、労働組合の団結力を発揮して雇用を守ることが求められます。

【就業規則の不利益変更を許さない】
賃下げや一時金、退職金制度の廃止・改悪は、経営者が一方的に行うことはできません。労働協約で定められた労働条件は、有効期間の定めがある場合には期間内の変更は労働組合の合意なしにはできません。有効期間の定めのない労働協約は労働組合法により90日前に破棄通告ができるとなっていますが、破棄後に経営者が一方的に就業規則を変更して労働条件を引き下げることはできません。コロナ危機による営収減は、歩合給で働くハイタク労働者の生活を極度に脅かしています。多くの離職者が出ている中で労働条件をさらに低下させれば、産業崩壊を招いてしまいます。就業規則の変更による労働条件の不利益変更の合理性について、最高裁は、①不利益変更の必要性、②見返り措置、③不利益の程度、④労働組合との十分な協議、⑤同業他所の状況、という5つの判断基準を示しています。経営責任を明確にさせ、経理公開やユニオンショップ協定を要求し、最高裁の判断基準を尊重した団体交渉を積み重ねて労働条件を守っていくことが必要です。

【出来高払いの保障給】
コロナ危機の中で大幅に歩合給が低下することにより、「出来高払いの保障給」をめぐるトラブルも出ています。労働基準法第27条は、出来高払い制や請負制の労働者に対し、使用者は労働時間に応じた一定額の賃金を保障することを定めていますが、「一定額」については法的強制力がありません。使用者に「出来高払いの保障給」を通常賃金の6割以上支払わせるために、すべての職場で「出来高払いの保障給」に関する協定を締結するとともに、就業規則に確実に明記させる必要があります。また、「一定額」を具体的数値として明記させるため、厚生労働省や支持政党への働きかけを強めます。


3.乗務員の感染防止対策の強化と補償の充実

感染対策はハイタク乗務員と利用者の命と健康を守るうえで最重要の課題です。タクシー車内の高性能空気清浄機の導入には国から2分の1の導入補助金がつきましたが、まだまだ費用負担が大きく、十分に行きわたっていません。補助率の引き上げや、自治体の上乗せ補助が必要です。兵庫県では全自交兵庫地連などの要請交渉により、2年連続で4分の1の上乗せ補助が実現しています。
また感染拡大下でも業務を続けたハイタク労働者の貢献に報いるため、危険手当を支給することも重要です。2022春闘では危険手当の要求に対し、名称を変えつつ支給が実現した例もいくつか見られます。行政に対しても、事業者への補助金だけでなく、労働者に直接届く支援金や慰労金の支給を求めることが重要です。
会社に対しては▽ハイタクの乗務により新型コロナに感染した場合の賃金全額補償や労災認定▽濃厚接触者として自宅待機する場合の生活保障と特別有給休暇付与等の対応▽会社の判断で乗務員に自宅待機を求めた場合の休業手当の支給を求めます。
雇用調整助成金(コロナ特例)を活用する場合、休業手当は「平均賃金の100%」を確保することに加え、歩合給制度や残業が組み込まれた勤務シフトで働いていることを考慮し、(1ヵ月すべて休業した場合の)総支給額と隔たりのない休業補償を求めます。


4.固定給中心の生活安定型賃金の確立

コロナ危機でも、ハイタク乗務員は社会生活に欠かせない極めて公共的なエッセンシャルワーカーとして働いています。それに見合った労働条件と社会的地位が確立されなければなりません。
毎年、最低賃金が30円前後上がる中で、従来のハイタク賃金の在り方を見なおすべき時が来ています。少なくとも地域最賃の額をしっかり上回るだけの固定給を設定し、生活安定型賃金へと舵を切らなければ、若い人材をハイタク業界に迎えることはできません。
日本の最低賃金は欧州各国に比べてまだまだ低く、長期にわたる低賃金・低成長時代を脱却するためには、今後も大幅な引き上げが必要となります。それを見据えて賃金体系や働き方を再構築していくことが必要です。
全自交労連は、生活安定型の賃金をめざし、固定給を中心としたA型賃金の再確立を求めて運動してきました。具体的には、①基本給に諸手当を付加した固定部分に、営収額の一定額に対して歩合給を加算する、②歩合給部分は、乗務員同士の競争をやわらげ、労働意欲を維持する観点から適正な「足きり額」と歩合給支給率を設定する。③生活設計を考慮し、夏季・冬季一時金と退職金制度を整備する。④基本給の水準は最低でも地域最低賃金+200円以上とする。⑤適正な定期昇給制度を確立する――ことなどを目指しています。公共交通労働者にふさわしく、若年者や女性にも魅力ある労働条件を確立するために全力をあげます。


5.長時間労働の是正

「働き方関連法」が施行され、自動車運転業務については2024年4月1日より時間外労働の上限規制として、年960時間が適用されます。また、拘束時間や休息時間を定めている「改善基準告示」の改正も、現在議論は大詰めを迎えており、同じく2024年4月1日より新基準が適用される予定です。健康を害し、自分自身と利用者を危険にさらす長時間労働は是正されなければなりません。
時間外労働960時間の上限規制や拘束時間・休息時間を確実に遵守し、同時に労働時間の減少によって賃金が下がることのないよう、労使の議論を深めていく必要があります。
改善基準告示の改正議論では、休息期間の下限は「日勤9時間、隔勤22時間」となりましたが、日勤で11時間以上、隔勤で24時間以上の休息を取らせるよう「努めることを基本」とされたことを踏まえ、十分な休息期間が確保されなければなりません。



6.法令違反の一掃と悪質事業者の排除

改正タクシー特措法の成立時に国会附帯決議の完全履行を求めて運動し、一定の改善を実現してきましたが、ハイタク産業全体を見ればまだまだ不十分です。①累進歩合給の排除、②固定給と歩合給のバランスの取れた賃金体系の再構築、③事業に要する経費の運転者負担の見直し、④過度な遠距離割引の是正、⑤過労防止対策、これら国会附帯決議をすべてのハイタク職場で完全履行するために引き続き努力が求められます。
「自動車運転者を使用する事業場に対する監督指導、送検等の状況」(2021年度)によれば、ハイタク職場の労働基準法違反率は86.5%で、前年度より0.7ポイント改善はしましたが、それでも9割近い事業場で労基法違反があり、自動車運転事業の中でハイタクの違反率が最も高い状態が毎年続いています。改善基準告示の違反率は25.6%で、前年より2.4ポイント改善。こちらはトラック、バスより違反率が低く、コロナ禍で夜間需要が落ち込んだ影響もあってか、拘束時間や運転時間に関する違反率は減少傾向です。
コロナ危機で、経営の困難は深まっていますが、確信犯的に法令を無視し、労働者を犠牲に生き延びようとする悪質事業者を許してはなりません。
最低賃金違反などの法令違反に対し、すべての職場と地域で、違反事業者の監視・摘発に取り組まなければなりません。タクシーは、コロナ危機において国や自治体から「生活に欠かせない公共交通」として認知され、事業継続支援や雇用調整助成金を受けています。だからこそ、タクシーの社会的信頼を失墜させる法令違反を野放しにすることはできません。


7.有給休暇の確実な取得

年10日以上の有給休暇が付与されている労働者に対し、年5日以上の有給休暇を取得させることは使用者の義務です。コロナ危機により、休業せざるを得ない職場でも、休業日と別に有給休暇を確実に取得させなければなりません。また、会社から休業日とされた日でも、労働者が希望すれば、有給休暇を取得することができ、使用者がこの有給休暇の権利を制限することは許されません。


8.雇用形態による差別禁止

正社員と有期雇用契約社員(定年後の再雇用者を含む)との不合理な差別は禁止されています。職務内容と責任の程度において差がない「正社員と同じ業務」を行う有期契約社員を雇用形態の違いだけで、労働条件に不合理な待遇格差を設けないよう労働組合として点検し、「同一労働・同一賃金」を職場で推進し、労働組合の組織化につなげます。2022春闘でも非正規社員の歩率の引き上げなど、複数の職場で同一労働・同一賃金への前進が見られました。
また、近年は高齢の嘱託社員の比率が高まっており、①65歳(事情により70歳)までの定年延長、②同じ勤務シフトで働く場合の「同一労働・同一賃金」、③高齢乗務員の健康に配慮した勤務シフト、④健康管理体制の充実、⑤雇用年齢上限(75歳まで等)について検討していきます。

【社会保険の範囲拡大】
非正規従業員に対する社会保険の加入範囲が拡大されます。すでに従業員501人以上の会社では適用されており、2022年10月からは従業員101人以上、2024年10月からは51人以上の会社が対象となります。
これまで、社会保険の加入が義務付けられるのは正規従業員または、週の所定労働時間と月の所定労働時間が正規従業員の4分の3以上ある非正規従業員でしたが、範囲の拡大によって
①週の所定労働時間が20時間以上
②月額賃金(時間外や休日・深夜手当などを除く)が8万8000円以上
③2ヵ月を超える雇用の見込みがある
④学生ではない
という4つの要件を全て満たす非正規従業員には、社会保険の加入が義務付けられます。
労働者にとってはメリットがある反面、経営側は企業負担分の増加となるため、要件を満たさないよう週20時間以内での勤務を求めるケースや、あるいは「負担する分もっと稼げ」と従来以上の出番数を求めるケースが想定されます。ハイタクの場合、定時制乗務員は定年後の嘱託雇用が中心的ですが、国民健康保険料は75歳まで、厚生年金保険料は働き続ける限り70歳まで払う制度ですので、決して無関係ではありません。
労働者本人の希望に合わせて、働き方を選択できるよう、事前に職場で協議を重ねておくことが重要です。


9.ジェンダー平等の推進 女性や若者が働きやすい職場に

女性乗務員は、いまだハイタク労働者全体の約4%にとどまります。女性が働きやすい環境の整備はまだまだ不十分で、制度面でも施設面でも改善が必要です。共働き世帯が増加する中、男性も家事や育児、介護などを分担し、男女のワークライフバランスを実現しなければなりません。都市部を中心に大学新卒乗務員の採用も増加しており、若者が希望をもって働ける職場を作っていく必要があります。
性的指向、性自認の違いを尊重してジェンダー平等を推進し、多様性を尊重して人種や国籍、出自や思想・信条など全ての差別・偏見を職場から排除しなければなりません。
また2022年4月より、中小事業者にもパワーハラスメント防止対策が法律で義務化されました。直接的な暴力、人格を否定する言動や大声での威圧的な叱責など精神的暴力に加え、気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない行為などもパワハラに該当します。職場からパワハラを根絶しなくてはなりません。
全自交は以下の項目を経営者に求め、全ての人が働きやすい職場の実現を目指します。

①「育児・介護休業法」を遵守して、女性の出産休暇、男女の育児休暇・介護休暇などの申請・取得を後押しし、取得やその後の職場復帰に際して不利益な扱いを行わないこと
②男女雇用機会均等法の趣旨を理解し、女性であることを理由に、昇進や昇格に差をつけないこと
③ハラスメント対策関連法に基づき、セクシャルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティハラスメントなど、あらゆるハラスメント行為の防止に努めること
④子どもや親の急病、学校行事、育児などの必要に応じ、勤務時間・休憩時間の柔軟な運用、所定外労働の免除、短時間勤務などに応じること
⑤事業所内保育施設(認可施設)や、認可保育所と同等の質が確保された企業主導型保育施設の設置を検討すること
⑥生理休暇を申請・取得しやすい環境を整備すること
⑦女性用の更衣室や仮眠室、衛生的なトイレなど、可能な限り女性が働きやすい職場環境を整備すること
⑧土日に休める勤務シフトなど、若者の求める労働環境を整備すること


10.乗務員の健康対策

平均年齢が60.7歳というハイタク労働者の健康を守るため、健康診断の確実な受診と事後の再検査などの対応を徹底しつつ、乗務員の自己負担のない脳MRI検診や睡眠時無呼吸症候群の検査を推進していく必要があります。
また、道路交通法の改正により、75歳以上で特定の違反歴がある全ての人に、運転免許更新時の「運転技能検査」が義務付けられたことから、自教職場とも連携しつつその対応について検討し、安全に長く働ける職場の構築を進めます。


11.カスタマーハラスメント対策

利用者による暴言や、人格を否定するような行為、理不尽な要求などを「カスタマーハラスメント」と呼びます。2021年に交運労協が行ったアンケート調査では、「直近2年以内で利用者からの迷惑行為にあった」と答えた労働者の割合がタクシーは58%に上り、全ての交通モードの中で最も高い割合でした。現場で単独で利用者と向き合わざるを得ない、ハイタク乗務員にとって「カスタマーハラスメント」は大きなストレスであり、離職を招く要因の一つともなっています。
交運労協の策定した「カスタマーハラスメント防止ガイドライン」に基づき、悪質なカスハラから現場の労働者を守るために、企業への対策を求めていく必要があります。また「お互いの労働に対するリスペクト(敬意)の欠如」がカスハラを生む土壌となっていることを踏まえれば、社会全体への啓発も重要であり、労働者としての連帯・共感を取り戻すことがカスハラ防止に向けた解決策となります。


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