自家用車による白タク「ライドシェア」が日本に導入される危機が高まっています。これまでにも繰り返し、ライドシェア解禁を求める動きはありましたが、今回は与党の有力議員や現役閣僚が声を上げており、テレビや新聞などのメディアも連日「タクシーが足りない」「高まるライドシェア解禁論」といった報道を行うなど、過去にないレベルの緊急事態となっています。
ライドシェアは危険な上に、働く者の低所得化を招きます。その弊害は世界中で証明されており、先進国の8割が禁止しています。にも関わらず、推進派は「ライドシェアが必要だ」という世論を作り上げ、政府や自治体を動かそうとしています。
全自交労連は地域公共交通を維持し、利用者の安全と労働者の生活を守るため、全力でライドシェア阻止に向けた行動に取り組んでいますが、メディアの力に対抗することは容易ではありません。組合員一人一人の力が必要です。仲間や家族にライドシェアの危険性を伝えてください。まもなく国会への請願署名活動にも取り組みます。全国からライドシェア反対の声を上げましょう。
◆菅、河野、小泉
8月19日、菅義偉前首相が「観光地が悲鳴を上げている」「現実問題として(タクシーが)足りない。これだけ(運転手の)人手不足になってきたら、ライドシェア導入に向けた議論も必要だ」と発言しました。8月27日には、河野太郎・デジタル大臣が会見でデジタル庁としてライドシェアを検討する方針を表明。河野氏は内閣改造後も留任し、さらに規制改革担当も兼務しているため、非常に危険です。さらに小泉進次郎衆議院議員も解禁を主張しています。
◆神奈川県知事も
菅、河野、小泉は全員が神奈川県を地盤とする自民党の国会議員ですが、神奈川県の黒岩祐治知事もライドシェア解禁へ動き、テレビ番組で「神奈川版ライドシェア」という構想を発表しました。また、菅前首相の息のかかった「活力ある地方を創る首長の会」という団体もライドシェア推進の動きを見せています。
◆メディア報道
菅発言以降、テレビ、新聞、ネットで解禁論者の主張が垂れ流される状況が続いており、橋下徹氏や堀江貴文氏、竹中平蔵氏らがタクシー業界の労使を「既得権益」として攻撃しています。9月3日のJNNの世論調査では、ライドシェアについて55%が反対、賛成は31%でしたが、推進派は世論を変えるためにメディアを使った動きを強化しています。
◆国交省は容認せず
斉藤鉄夫・国土交通大臣は菅発言を受けた8月25日の記者会見で、引き続きライドシェアを認めない姿勢を示しましたが、「タクシー供給が需要に追いつかない地域が生じていることは解決すべき喫緊の課題」とも述べました。
◆タクシー議連は反対
全自交では、立憲民主党や国民民主党のタクシー政策議員連盟(辻元清美会長)と、連携を密にし、阻止に向けた対策を進めています。また自民党のタクシー・ハイヤー議員連盟(渡辺博道会長)もライドシェアの導入には慎重な姿勢を保っています。
1.ライドシェア阻止
白タク・ライドシェア合法化の危機が目前に迫っています。ライドシェア解禁論が勢いづいている背景には、タクシーの供給不足があります。特に京都や沖縄、北海道のニセコ、大分の別府温泉などが名指しでメディアに報じられており、これらの観光地や、国家戦略特区に指定されている大阪などの地域は特に危険です。
全自交労連はライドシェア合法化阻止に向けた運動を強化。ハイタクフォーラム、タクシー政策議員連盟、交運労協、ITF、連合、他のハイタク労働産別、全国ハイヤー・タクシー連合会などと連携を強化してライドシェア阻止に向けた共同戦線の構築に取り組んでいます。
また、広く社会に訴えるため、メディアへの働きかけや、Ⅹ(旧ツイッター)やホームページなどを通じた情報発信に取り組んできました。Xでは8月に「ライドシェアのここが駄目シリーズ」の投稿や、京都地連から寄せられた京都駅の繁忙状態などを発信。ライドシェア解禁派の主張に一つ一つ論拠を示して反論するとともに、利用者の声に応えるための労働組合としての取り組みを進化させます。
利用者から「タクシーに乗れない、タクシーがいない」という苦情があることは事実です。タクシー側にも供給不足の解消に向けた取り組みが必要であり、そのためには賃金・労働条件の改善こそ最優先されるべき課題です。
また即効性があり、利用者の目に見える取り組みとして、駅や空港、病院などのタクシー乗り場の運用ルールの改善や、計画配車なども検討する必要があります。
ライドシェアは利用者を危険にさらし、職業ドライバーの待遇をどん底に落とす最悪の交通手段です。一部の推進派は「過疎地のためにライドシェアを」と主張していますが、需要の少ない過疎地でライドシェアが機能している例は海外でもありません。逆にライドシェアが解禁されれば、不公平な競争を強いられるバス・タクシー会社が廃業・倒産し、交通空白地問題は一層悪化することになります。
2.乗務員の減少
2023年3月末の全国の法人タクシーの運転者証交付人数は23万1938人でした。タクシー乗務員の減少・高齢化は深刻でコロナ禍の3年間に全国で5万9578人、約20%減少しました。平均年齢は58・3歳です。
ただ、運賃改定による賃金回復の効果もあり、直近では乗務員数は増加に転じています。2023年3月末から6月末にかけて、全国の法人タクシー乗務員数は964人増加しました。女性乗務員の数は23年3月末で9673人。
前年から203人増加し、全乗務員に占める比率は4・2%となりました。10年前に比べ女性乗務員の比率は2倍に増加しています。
人材不足を解消するため、絶対に必要なことは乗務員の賃金・労働条件の改善と格差是正です。それ以外の抜け道も近道もありません。また女性や若者が働きやすい職場環境、高齢者が健康で安全に働ける職場環境を整える必要があります。コロナなどで一度職場を去った仲間を呼び戻すための取り組みも重要です。
外国人労働者の受け入れを緩和する政策について反対はしませんが、経営側が「安く使い捨てにできる労働力」を期待しているのであれば強く反対します。言語対応や衣食住を含めて責任をもった受け入れ態勢を整え、十分な教育・訓練を実施し、社内外で人種差別・偏見を取り払うための取り組みなどが事業者に求められます。
3.二種免許
二種免許などプロドライバーの資格を緩和しようという動きがありますが、二種免許は、タクシーのみならず全ての旅客運送において安全の担保に必要不可欠なものであり、容認することはできません。
技術の進歩で必要性の薄れた規制を見直すことや、若者や女性のニーズに応じた制度の改正は検討すべきかもしれませんが「守るべき一線は守る」必要があります。
4.運賃改定
全国101運賃ブロック中96で運賃改定が実施または進行中となっています。改定率は軒並み10%以上と高く、大半の地域で順調に営収が伸び賃金が向上。一方で、全産業平均との年収格差はまだ135万2400円あります。
全ての地域で適正な人件費を反映した運賃改定が必要です。物価が高騰し、他産業での賃上げや最低賃金の大幅アップが見込まれる以上、今後も物価上昇に合わせて定期的な運賃改定は欠かせません。下限割れのダンピング運賃は一刻も早い根絶を求めます。
2023春闘では、歩合率の引き上げや、固定給のベースアップ、企業内最低賃金創設、インフレ手当を含む一時金の増額や各種手当ての新設など、目覚ましい回答を多くの職場で引き出しました。歩合制賃金ではない運行管理者、配車オペレーター、事務職、技工などの内勤職の賃上げを勝ち取った職場も多くあります。引き続き、エッセンシャルワーカーに相応しい賃金・労働条件の確立に向けた運動が必要です。
5.廃止5・5割
今回の運賃改定を機に、近畿地方での5千円超5割引き、通称「5・5割」がほとんど廃止されました。その効果は絶大で、大阪からは運賃改定率の2倍ほど営収が上昇している報告が寄せられています。
タクシー規制緩和以来、「適正な人件費が確保される適正運賃の確立」を掲げてきた全自交にとって、規制緩和の象徴であった5・5割引が大半で廃止されたことは、極めて大きな成果でした。
6.長時間労働
2024年4月より、ハイヤー・タクシー運転者にも時間外労働の上限を年960時間以内とする規制が適用されます。同時に改正改善基準告示が適用され、拘束時間や休息期間のルールも厳格化されます。ハイタク労働者の命と健康を守り、利用者の安全性を高めるために長時間労働は是正されなければなりません。一方で労働時間規制を守りながら、賃金を下げないための取り組みが重要となります。
7.需給調整
改正タクシー特措法による需給調整の仕組みは、形骸化しつつあります。特定地域の候補になっても事業者側が指定を拒否するため、特定は全国で2地域にまで減少しました。「全国的」「恒久的」にタクシーの運賃と需給を規制できる抜本的な法改正・立法が必要です。
8.地域交通
地域住民の移動する権利を守ることは公共交通であるタクシーの使命です。全国でデマンドや定額が行われ、自治体によるバス・タクシーへの支援も広がりました。国土交通省は、最低1台から営業所を設置可能にするなど、地域公共交通を残すための制度改正を進めています。
ライドシェアや採算性を無視したIT企業主体の運行ではなく、タクシー事業者が、積極的に自治体と連携・交渉し、地域に最適な形の運行に挑戦していかなければなりません。
車いす送迎時の乗務員の負担改善や、オートガススタンドや自動車教習所などのインフラ維持も課題です。
また完全自動運転が実用化されても、有人タクシーは必ず必要になるため、自動運転の実現後の雇用安定に向けた法整備も必要です。
労働条件を改善する取り組み
ライドシェア反対の決意を固めあった
ハイタクフォーラムの総決起集会
(2023年3月10日)
1.働きやすい職場へ
女性や若者をはじめ、全ての人が働きやすい職場環境をつくるため、低賃金・長時間労働の改善、有給休暇の取得率向上、柔軟な勤務シフト、産前産後休業、育児休業、介護休業の制度整備と取得改善に取り組みます。定年延長、同一労働・同一賃金の推進や、会社負担での脳MRI検診など健康を守る取り組みを進め、安心して長く働ける環境整備に取り組みます。
また、労働者の人権と心の健康を守るために、全ての差別とハラスメント行為の根絶に取り組みます。特にカスタマーハラスメント防止対策は重要であり、交運労協の「カスタマーハラスメント防止ガイドライン」に基づき、事業者側に対策を求めます。
2.固定給主体の賃金体系
安定性とやりがいを両立した賃金体系を検討します。また全国一律ではなく、地域の事情を踏まえ検討します。
3.物価高に負けない賃上げ
エッセンシャルワーカーに相応しい賃金、物価高騰と他産業の賃金アップに負けないだけの賃上げが絶対に不可欠です。まずは運賃改定の増収分を確実に賃金に反映させるため、労働分配率の改悪を許さない取り組みやA型賃金の固定給のベースアップが重要です。さらに、2024春闘での賃上げに取り組みます。
4.雇用の維持
不当な解雇に対し、団結力を発揮し闘います。
5.労働関係法令違反一掃
最低賃金法違反、労働時間管理の不徹底や日報の改ざんなどの法令違反を根絶しなければなりません。同時に最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策や、監査人員の増員と質の向上を求めます。さらにデジタルタコグラフの全国での装着義務化等の規制強化を要求します。
組織拡大と財政健全化
今後も、全自交運動の灯を絶やさぬよう、以下の事項に取り組みます。
1.組織拡大
物価が高騰し賃上げの必要性が明らかな今こそ、労働組合への期待は高まっています。春闘で勝ち取った成果や守り抜いた労働条件を広く宣伝し、職場内の組織率向上や、組織拡大行動に生かしましょう。仲間を増やし交渉力を強化することが重要です。
2.財政健全化
財政の健全化には早急な対策が必要です。財政検討委員会の答申書に基づき、大幅な支出削減に取り組みます。
3.オンライン会議の活用
4.速報や機関紙
動画配信、ホームページを使った教宣活動強化 昨年より地連本にFAXで「全自交NEWS」を送信する取り組みを始め、半年間で21回を発行しました。また機関紙、YouTube配信、SNS、ホームページなどの充実を図ります。
5.学習活動の強化と次世代の育成
学習強化、次世代を担う活動家の育成、女性組合員・役員の増強に取り組みます。
政治課題と労働者連帯
全自交労連は、立憲民主党を支持し、働く者の代表を国会や地方議会に送り出し、労働者の声を政策に反映させるための活動に取り組みます。
とりわけ、ハイヤー・タクシー労働者の抱える課題を解決するため「ハイタクフォーラム」を通じ、「タクシー政策議員連盟」の活動を力強く支援します。
また交運労協の一員として、交通運輸サービス産業で働く労働者の権利と社会的地位の向上に取り組み、国際運輸労連を通じて世界の交通運輸労働者と連帯します。
連合に加盟し、全ての労働者との連帯・共闘を推進します。
平和な社会を守る
フォーラム平和・人権・環境(平和フォーラム)の構成団体として 憲法を護り、憲法理念を実現する取り組み▽軍備拡張に反対し外交努力による平和を追求する取り組み▽核兵器廃絶に向けた取り組み▽ヒバクシャ(被爆者・被曝者)援護と連帯▽沖縄の新基地建設を阻止する取り組み▽原発再稼働に反対し、脱原発を実現する取り組み▽人種差別根絶、部落差別根絶、外国人技能実習制度廃止などあらゆる人権問題への取り組み▽労働基本権を守り、労働組合に対する不当な弾圧を許さない取り組み▽食・水・みどりをめぐる取り組み、に参加します。
政策面の取り組み
①ライドシェア・白タクの合法化阻止
②公共交通を守るための取り組み
ハイタク事業者や乗務員に対する公的支援の獲得▽地域公共交通会議への積極参加▽中小企業に対する最低賃金の支払い支援策▽過疎地や交通空白地でのタクシーの活用▽オートガススタンドの存続支援や、スタンド撤退地域での車両更新費の補助 等
③改正タクシー特措法の適切な履行とタクシー事業法の追及
④タクシー関係法令の改善
⑤運転代行適正化
⑥電動キックボード等の安全規制見直し
ハイヤー方針
魅力ある労働時間と賃金
「都市型ハイヤー」新規参入の影響から、2014年と2021年を比較するとハイヤー事業者数は300社から529社、車両数は5018台から6557台まで増加し、ダンピング競争が激化。営業収入自体は回復傾向にありますが、ダンピングによる収益性の低下は続いており、運賃改定の気運を高められない要因となっています。またコロナ禍において多くの乗務員が業界から去ってしまい、早急な要員回復は必須です。
ドライバーの健康を守り、新たな担い手を確保するためにも、事業者に対し、時間外労働の上限規制と、改善基準告示の遵守だけでなく、更なる長時間労働の是正を求めます。時間外労働の減少が賃金の低下に繋がらない、固定給部分に厚みをもった魅力ある賃金体系を構築し、時間外労働規制が更なる人材の流出ではなく、新たな雇用の創出となるよう、労使が一体となった取組みが必要です。
政策面では運賃改定を実現する必要があります。さらに燃料高騰への対策や、乗務員の健康管理・維持に必要な検査や設備への補助等の更なる拡充を行政に求めていきます。
これまでは関東の加盟組織が中心でしたが、今後は他地域とも意見交換し、未組織労働者に対する組合結成、全自交への結集を呼びかけていきます。
自動車教習所方針
コロナ禍では2021年まで3年連続で卒業者数が増加してきましたが、22年は減少に転じ、前年より約9万人少なくなりました。自動車教習所は、今日の車社会の安全を支える存在ですが、この10年で56校減少しています。
自教労働者の労働条件は、教習の質を担保するために最も重要な要素ですが、賃金は低い水準に抑え込まれており、多くの職場で人材不足が叫ばれています。安全を支える仕事にふさわしい労働条件を確保し担い手を増やすことが重要であり、適正な賃金を支払うためにも、ダンピング競争を終わらせなければなりません。
労働条件の不利益変更や不当労働行為を許さず、適正な定期昇給や一時金・退職金の確保に奮闘します。65歳までの定年延長、「同一労働・同一賃金」の実現などを求めます。
オンラインでの学科教習が拡大するなか、仮免許取得までの技能教習において、AIが指導員の代わりに、教習生を教える事例まで登場。全国で7校が導入したと報じられています。自教労働者の雇用を脅かす可能性があり、動向を注視します。
7月に発生した秋田豪雨災害で、自宅の浸水被害などにあった全自交の間に対し、全国から78万8158円もの支援カンパが寄せられました。本部を通じ、秋田地連に届けます。ご協力に感謝します。
トルコ・シリア地震支援
ITFから感謝状
全自交は、2月のトルコ・シリア地震の被災者に対し、全国から集まった47万2726円のカンパを贈りました。9月20日には、国際運輸労連(ITF)会長や欧州運輸労連会長の連名で「最も困難な時に連帯することの真の意味を示してくださいました」との感謝状が届きました。