伊藤実中央執行委員長
全自交労連は、7月11日、東京都千代田区の全日通霞が関ビルで「2023夏季労働セミナー」を開催しました。
全国各地より約150人が参加し、日々の労働運動に生かすための学習を深めました。
今後の運動方針の策定に向け、野尻雅人書記次長が討議課題を提起し、2023春闘の総括を行いました。また松永次央書記長がまとめ報告を行い、二種免許を持たないドライバーをタクシー車両に乗務させるタクシー業界のプランについて「私たちは、これだけライドシェアに反対してきた。安全を第一に考えれば黙って見ているわけにはいかない」と批判しました。
講演では、国土交通省自動車局旅客課の石嶋隆之地域交通室長が、全国の運賃改定の状況や、乗務員のプライバシーに配慮した運転者証の刷新、営業所の要件や、点呼に関する規制の緩和、タクシー業界への支援策などについて説明しました。
さらに「ライドシェアをいかに撃退するか」をテーマにITF(国際運輸労連)の浦田誠政策部長が講演。世界の情勢を踏まえ、国内ライドシェア推進派の間違いを鋭く指摘しました。あわせて津田光太郎書記次長がITFとして行った台湾タクシー視察について報告しました。
溝上中央執行委員長
溝上中央執行委員長
現場の声に皆で協力
セミナーの閉会に当たり、溝上泰央・中央執行委員長は「昨日の中央執行委員会では、全国各地の現場の現状について、しっかりと報告をいただき全国で共有することができた。今後もセミナーや中央委員会では、ぜひ地方の声をたくさん出していただき、皆でどういった協力ができるか考えていきたい。やはりキーワードは『団結』です」と語り、「ライドシェアを阻止し、持続可能なタクシー産業を構築するため、全自交労連団結してガンバロー」という掛け声の元、参加者全員が心を一つに拳を突き上げました。
溝上委員長は冒頭の主催者あいさつでは「全国のあらゆる場所で自然災害が頻発しており、お住まいの地域でも、どこが危険なのかや避難所の位置をハザードマップ等で確認していただきたい。なにかあれば、全自交本部にも必ずご連絡を」と話し、春闘について「全自交では6月16日までに合計で94の組織が妥結した。需要の回復と運賃改定による増収分が、確実かつ適正な賃上げにつながるよう賃金制度を維持する闘いが中心ではあるが、事業者の業績回復により一定の成果があった。まだまだ解決に至っていない仲間も含め、厳しい中での粘り強い交渉に、敬意を表します」と述べました。
タクシー乗務員不足を背景としたライドシェア導入論に対し「日本での労働力不足についても労使でしっかり考えなければならない状況に来ている」と語り、衆議院の解散総選挙を想定して「特にライドシェアを推進する維新のような勢力が大きくならないようしっかりと取り組まなければ」と呼び掛けました。
課題提起 賃金を上げて雇用を改善
次年度の運動方針の確立に向け、野尻雅人書記次長が討議課題を提起しました。
野尻書記次長は「利用者からはタクシーがつかまらないという声が上がっている。年々運転者が減り続けていたところに、コロナで加速度的に減少が進んだことが原因だ。『タクシーがいないからライドシェア導入』とならないよう労使で対策に取り組まなければならない」と語り、雇用を促進するために「賃金・労働条件を改善し、他産業との賃金格差を解消しなければならない」「ブラックな職場というイメージを変え、女性や若者が働きやすい職場をつくる必要がある。また高齢者が安心して長く健康に勤務できるよう事業者負担での脳MRI検診や感染症対策の充実が必要だ」と求めました。
野尻雅人書記次長
座長を務めた東京地連の
本田明広書記次長
ただし、二種免許を持たないドライバーをタクシーに乗務させる提案については「全自交としては絶対に反対だ。
ライドシェア解禁につながりかねない」と強調しています。
2024年4月から残業時間規制と新たな改善基準告示が適用されることに対しては「長時間労働を抑制した上で賃金低下を招かない取り組みが重要だ」と語りました。
運賃改定について、公定幅を守らないダンピング運賃や、運改にあわせた賃下げに対し強く闘う姿勢を示しました。
地域公共交通を守るための取り組みも提起し、LPガススタンドや自動車教習所を守っていくことの大切さや、自治体と連携した取り組みの強化を呼び掛けました。
松永書記長「先にやるべきことを」
松永次央書記長は、タクシー業界が検討している二種免許不要のタクシー乗務案に対し「先にやるべきことがある」と、見解を語りました。
この案は報道によれば、普通免許しか持たない人を、1年間の有期雇用でタクシー会社が雇い、自家用有償運送のドライバーとしてタクシー車両に乗務(アプリと無線のみ)させつつ、1年以内に二種免許の取得をうながすというもので、全国ハイヤー・タクシー連合会が検討しています。
松永書記長は「黙って見ているわけにはいかない。私たちはライドシェアに反対する中で、安全第一で二種免許の必要性を訴えてきた」、「1年間の有期雇用中に必ず二種を取るよう縛ることは不可能で、途中で別の会社に移ることもできてしまう。簡単な話ではない。人材確保のために、やるべき努力を果たすことが先だ」と語りました。
また1月の中央委員会で国交省の森哲也旅客課長が講演した際、神奈川地連より運転者証の見直しを要望する声が上がり、わずか半年で見直しが実施されたことについて「大変ありがたく思っている」と国交省に感謝しました。
松永次央書記長
「アリの一穴を許してはならない」
松永次央書記長は、タクシー業界が検討している二種免許不要のタクシー乗務案に対し「先に開会時に演壇に立った見須一隆副委員長(東京地連)は「運賃改定により、各地で大きく売り上げが伸びているが、乗務員不足の中で稼働が少なく、再びライドシェア推進が動き出した。議論を深め、各地域に持ち帰って、労連の運動を続けていくための材料にしてほしい」と呼び掛けました。
石橋剛副委員長(富山地連)は閉会あいさつで賃金改善について述べ「運賃改定ではかなりの効果が上がり、春闘方針の1万円プラス7%をクリアしている地域もある。」 「方針の策定に向け、今後も意見を出していただき、皆で闘い、皆で解決する全自交の団結の力を強化してほしい」とあいさつ。
左:見須副委員長
右:石橋副委員長
また故・宮里邦雄弁護士が、雇用破壊の元凶となった労働者派遣法の改正の際、野党側の証人として国会で「これがアリの一穴になる」と警鐘を鳴らしていたことを紹介し「今、〝アリの一穴〞が、私たちタクシー産業に生じようとしている。第一種免許での乗務を認めることは、ライドシェアとの関係において、まさにアリの一穴となりかねない。そうならないよう皆さんと共に団結し、全自交は全国津々浦々までタクシーを守るためにがんばっていきたい」と語りました。
国交省講演で多数の質疑
運転者証の扱いは?
講演し質疑に応じた
石嶋隆之地域交通室長
質疑を行った参加者。上段右から、神奈川地連の坂本氏、河口氏、京都地連の櫻井氏。
下段右から愛知地連の加藤氏、東京地連の沢頭氏。
国交省の講演後には、多数の参加者が質疑に立ちました。
坂本良介氏(神奈川)は新しい運転者証で個人情報が隠された裏面と従来通りの表面があることから、「乗務員のプライバシーを守るため、顔写真がない方を掲示するよう制度化してほしい」と求めました。石嶋室長は「いま省令の改正中だが『乗客側には登録番号と会社名だけの面を表示しなさい』という形にする」と回答しました。
また、河口健氏(神奈川)は「やりがいを増やすため、配車アプリにチップ機能をつけるよう働きかけを」と提案。加藤勇作氏(愛知)は運賃改定の迅速化を求めると共に運賃ブロック統合の進捗状況を質問。櫻井邦広氏(京都)は改定実施後の状況を報告。沢頭満則氏(東京)は過疎地の個人タクシーに関して見解を述べました。
徳久副委員長
長崎県タク争議報告
長崎県タクシー労働組合の徳久洋一副委員長は、一時金の支払いを求めて係争中の労働争議の経過を報告し、「ご支援に感謝するとともに、今後も長期にわたる争議が予想される」と述べました。
浦田誠・ITF政策部長
ライドシェアをいかに撃退するか
国際運輸労連(ITF)の浦田誠政策部長は、「ライドシェアをいかに撃退するか 台湾の事例より」と題して講演=写真。
台湾では労組の反対運動が力強く「世界中のタクシー労働者がライドシェア反対運動をしてきたが、台湾のように3カ月連続で数千人を動員したところは中々ない。政府が『ドライバー付きのレンタカーとして認めても良いのでは』とぶれた時もあったが、組合がしっかり駄目だと言って阻止した。蔡英文首相にも働きかけた」、「そして、ただ反対だけでなくアプリ配車に適応した新しい『多元化タクシー』という制度をつくりだした。これは台湾の運動の成果だ」と評価しました。
そして、日本の状況について「示し合わせたようにライドシェア解禁論が再燃している。橋下徹氏の主張は、非常に古くくだらない内容だが、極端な意見を言って『ライドシェアを考えてみよう』という世論を形成することが彼の役割でしょう」と分析。また国内での動きの多くに、ソフトバンクが絡んでいることを指摘し「ソフトバンクがウーバーやディディ、グラブなど世界中の配車プラットフォームに投資してきたことと無関係ではないだろう」と危機感を示し、今後も阻止運動を強化し、同時に持続可能な公共交通の在り方を提案していく労働運動の重要性を強調しました。
ITF 台湾視察
ライドシェアを撃退した台湾のタクシー労働組合にて
労働部と意見交換
ITFに加盟する日本のタクシー労組は、全自交労連の溝上泰央委員長を団長とし、6月25日から28日まで台湾のタクシー事情を視察。
最大手タクシー会社の台湾大車隊
台湾の労働組合、タクシー会社、交通部(日本の国交省)、労働部(日本の厚労省)を訪問して意見交換しました。
その成果として夏季セミナーでは、視察に同行した津田光太郎書記次長が①公共交通としてのタクシーの位置づけ②ライドシェアを撃退し排除した運動の教訓③台湾のタクシーの規制政策④ギグワーカーに対する規制の4点を報告しました。
ライドシェア撃退し多元化タクシー
①多元化タクシー
違法・脱法のライドシェアとの闘いを経て、2017年に制度化。アプリ配車のみで営業。行灯を装着してはならず、車色は自由。台数はタクシーの規制台数の中に含まれ、2023年4月末現在で2万2600台(タクシー全体の約25%)。
右が一般タクシー、左が多元化タクシー。
ともに赤色の事業用ナンバー
運賃はタクシーより安くしてはならず、行政がチェック。乗務員のライセンスは一般タクシーと同じで、個人事業主だが全てタクシー会社に所属する。
上:会社ごとに様々な行燈
下:台北駅のタクシー乗り場
②公共交通としての台湾のタクシー
2005年に「タクシーは公共交通」と法的に認められ、公共交通としてタクシードライバー(個人事業者)は燃料税(日本でいう自動車税)とライセンス税が免除。労働組合の運動で、税金免除を勝ち取った。
台湾大車隊の本社には理髪店、食堂、購買部、車
やメーターの売り場まで様々な設備がある
中華民国交通部(日本の国交省)は、「利用者の権利とともに、運転者の報酬も守らなければならない」と明言。
最近では、燃料費の高騰に対し、運賃を上げなくてすむようタクシーへの補助金を創設。ユニバーサルタクシーでは購入時の補助に加え、車いす対応で減収になる乗務員への補助制度も検討。
過疎地の交通は原則として乗合バス優先だが、利用者が少なければタクシーが代替。補助金を出し元のバス運賃と変わらない運賃で運行。タクシーでも難しい場合には、日本の自家用車有償運送のような仕組みがある。
バイク社会の台北では、ウーバーイーツなどの
事故が大問題だ
③台湾のタクシー事情
9万台のタクシー用ナンバーが交付され、内5万6000台が台北エリアに集中。台数は交通圏ごとに国が上限を定めており、供給過剰の台北では新規許可は認められない。
運賃は地域ごとの統一運賃。台北では2023年4月に値上げし、初乗り85元、爾後は200mごとに5元(1元は約4.6円)。値上げは各地域で労働組合が計算して役所に申請する。
ドライバーはタクシー会社に所属(登録)しているが個人事業主で労働時間管理や運行管理は受けていない。車もドライバー個人の保有。日本の運転者証のようなライセンス制度があり、筆記試験に合格する必要がある。70歳を超えるとライセンスが無効になる。性的犯罪歴のある人には永久にライセンスが発行されない。話を聞いたドライバーは「1日7時間働き、月に8日休んで売り上げが約46万円、手取りが約37万円」と話した。
9回目となる東日本自主経営学習・交流会が7月3日、秋田市の秋田温泉さとみで開催されました。東北と新潟の全自交の自主経営職場の労使が参加。去年に続き、愛媛の駅前タクシーも参加し、総勢27人で議論を深めました。
メイン企画となるパネルディスカッションでは、①お互いに支え合うための共同配車等の共同事業について②自治体と連携した持続的な仕事の受注について③人材確保のための賃上げや募集方法について、議論しました。
人材確保の面では成功事例として、企業内最賃の創設、入社3ヶ月まで月20万円の最低保障給、働きやすい職場環境認証制度の取得、若い人を意識したホームページの作成、タウン誌への求人掲載などが紹介されました。
戸崎肇教授や、電脳交通の近藤洋祐社長、
東京交通新聞の竹ノ内博美記者を交え、
自主経営の絆を生かした経営改善について
議論しました。
自主経営4社で共同配車
深夜など利用者の少ない時間帯の無線配車を維持していくために、全自交の自主経営職場では互いに協力し、今年6月から県をまたいだ「共同配車」の取り組みを導入しました。
利用者の少ない時間に限り、秋田港交通(秋田市)の配車室が、岩手県の玉川観光タクシー(二戸市)の無線配車を受ける仕組みで、電脳交通のシステムを使って導入。近く一関平泉タクシー(一関市)も一部の配車を委託し、来年には大館・花矢交通(大館市)も加わって4社の共同配車となります。
配車の受け手となる秋田港交通の佐藤和之社長は「共同配車によって双方の経営が向上する」とし、藤田一成所長は「他県の配車を受けるので心配したが、比較的暇な時間帯に受けるのでなんとかなってます」と言います。
配車を委託する一関平泉の菅原雄一社長は「1時間に一本の電話のために夜中も起きていることは大変で、配車員もやめてしまう。共同の輪が広がればお互いに助かる」とコメント。経費削減と夜間無線の維持を両立するため、今後も共同事業が広がりそうです。
赤湯観光タクシーの
島貫社長
全世帯が費用を負担!
500円のおきタク
自主経営の赤湯観光タクシー(山形県南陽市)は、4年前から全住民が支える定額タクシーの運行に携わっています。
南陽市沖郷地区では、登録した60歳以上の利用者が片道500円でタクシーに乗れる「おきタク」を運行中。メーター運賃との差額をまかなう費用として、市の補助に加え、地域の全世帯が年200円を払う仕組みが実現しています。
住民負担の費用は自治会を通じて徴収されますが、反発はなく、運転免許の返納率が高まるなど効果が上がっています。
戸崎教授が講演
基調講演として桜美林大学の戸崎肇教授が講演しました。
戸崎教授は、二種免許なしのタクシー乗務案について「働く者のプライド、ステータスの点からも問題がある」と語りました。
また、外国との格差拡大やオーバーツーリズム問題を踏まえ、「海外からきたお客さまから多めに運賃を取れるような制度を真剣に検討すべきだ」と提言しました。