全自交労連は7月11、12日、静岡県伊東市のホテルジュラクで2022夏季労働セミナーを開催し、全国から193人が参加しました。初日は、交運労協の慶島譲治事務局長、東京共同法律事務所の木下徹郎弁護士、国土交通省自動車局旅客課の梅田智タクシー事業活性化調整官が講演。2日目には松永次央書記長が、運動方針のたたき台となる討議課題を提案し、春闘の取り組みを報告しました。
溝上泰央中央執行委員長があいさつし、参議院選挙について「全自交労連の推薦した鬼木誠氏、辻元清美氏は、しっかりと当選させることができたが、立憲民主党は6議席減らし、今後厳しい状況が予想される」と総括。安倍元首相の死去に関し「思いはあるが、全自交労連としてテロは許さず、言論の自由を守る姿勢を明確にしたい」と語りました。
また来年の八戸市議選では、全自交組織内の山名文世市議の再選を強く支援する方針を表明しました。
溝上委員長は、選挙後に予想される、憲法改悪や増税、雇用調整助成金特例の終了などの動きを許さない姿勢を示し、ライドシェア推進を掲げる日本維新の会についても「特に大阪万博が終わるまで最大限の警戒を」と呼び掛けています。
2022春闘について、「厳しい状況の中で、粘り強い交渉に敬意を表したい」とし、歩率アップや危険手当の支給などを勝ち取った職場があることを報告。また、「公共交通を支えるエッセンシャルワーカーの賃金がこれほど低いままでは、安全・安心を持続的に担保することもできなくなる。物価に合わせた適正価格を目指し、運賃改定の動きを全国すべての地域に広げ、全ての職場で賃金・労働条件改善の闘いを強化していかなくてはならない」と強く呼び掛けました。
溝上委員長がモビを批判 「5千円で収支はまかなえず」
夏季セミナーのあいさつで溝上泰央委員長は「コロナ禍でも歯を食いしばって耐えてきた地域公共交通を守るため、絶対にライドシェアを日本に入れることはできない」と強調し、モビについても発言。「月額乗り放題のモビが全国でサービスを始めようとしているが、乗り放題5000円で収支がまかなえるはずはなく、実際に、東京の渋谷区では、10カ月間の実績で黒字になった月は一度もない。約1200万円の売上に対して、原価は4200万円。3000万円近い赤字を出している。実質的に休憩が取れない働き方も問題だ」と批判しました。
「渋谷区ではひとまず本運行を阻止できた。不当な安売りは事業者、労働者、そして地域住民の全てを不幸にする。われわれは真に持続可能な地域公共交通を目指していかなければならない」と語りました。
モビ本運行を阻止 渋谷区地域公共交通会議
月額5000円乗り放題の、mobi(モビ)に対し、強烈なカウンターパンチが決まりました。
6月23日、東京都渋谷区はモビの恒久的な本格運行を始めるため、地域公共交通会議を開催しましたが、委員として参加した全自交東京地連・久我恒夫書記次長らの厳しい追及によって、会議は何も決定することなく閉会。ひとまず本運行を阻止し、実証実験も期限通り6月末でいったん終了しました。
地域公共交通会議では、モビの運営会社から村瀨茂高社長自身が出席して、説明を行いましたが、示した数字やアンケート調査の内容は、都合の良い情報や回答だけを集めたもので、東京都の委員すら「主観的だ」と批判するほどでした。バスタクシー労使からは怒りの質問が相次ぎ、久我書記次長は労働実態や労務管理の情報公開を厳しく要求しています。
実験では、10カ月で3000万近い赤字を出しましたが、モビは月額5000円を変更しない姿勢です。初めから採算性など考慮せず、激安価格で市場を奪い、後は自治体に赤字補てんさせる考えではないかと疑わざるをえません。今後も採算性と持続性、労働環境と安全性を追及し、本格運行を阻止する取り組みが重要になります。
会議に出席したモビの運営陣。
左端が、ウィラーの村瀨茂高社長。
運行している東京エムケイの役員も同席
講演① カスタマーハラスメント根絶
慶島譲治 交運労協事務局長
夏季労働セミナー講演の1人目は、交運労協の慶島譲治事務局長が登壇。利用者からの暴言や迷惑行為、いわゆる「カスタマーハラスメント」について、交運労協独自の「防止ガイドライン」を全員に配布し、根絶に向けた取り組みを講演しました。
慶島氏は、企業側の対応について、「マニュアル整備や専門部署の設置、被害者対策など、すでに取り組みをしている企業もある一方、タクシー労働者の50・9%は『特に対策されていない』と回答した」とし、他の交通モードに比べ、タクシー事業者の取り組みが遅れていることを指摘。
企業が取り組むべき対策について「『たとえお客様であろうと、従業員の人格を侵害する行為は決して許されない』という認識を労使で共有することが一丁目一番地」、「まずは企業トップが従業員を、守り尊重する姿勢を発信すること」と強調しました。
また初動の段階で状況を把握する前に、『お前の態度や口のきき方が悪かったんだろう』と事業者が労働者の責任と決めつけるケースについて「厳につつしまなくてはならない」と語りました。
講演② 労働法制の諸課題
木下徹郎 東京共同法律事務所弁護士
東京共同法律事務所の弁護士で、日本労働弁護団で事務局長も務める木下徹郎氏が労働法制の諸課題について講演。
解雇の金銭解決制度や、改善基準告示の見直し、最低賃金などについて、解説しました。
木下弁護士は、政府が検討している解雇の金銭解決制度について「今は『労働者のみが行使できる権利』となっているけれど、今後どうなるかは別問題。会社側から行使できるようになれば、労働組合の委員長を解雇しても『お金で解決します』ですんでしまう。強く反対していく」と警鐘を鳴らしました。
改善基準告示の見直しについて「一般則が上限720時間なのに、自動車運転者が960時間で良いのか。労働弁護団としても業界の実情を知り、賃金や運賃の問題も含めて、共同の運動を進めていきたい」と話しました。
講演③ 運賃改定などの最新情勢
梅田智 国交省自動車局旅客課
タクシー事業活性化調整官
国土交通省自動車局旅客課からは、人事異動となった大辻統課長に代わって、タクシー班長を務めるベテランの梅田智調整官が講演しました。
梅田氏は、国交省が検討している運賃改定の新基準について「コロナ禍で蓄積したデータを用い、コロナ前までの需要が戻らない場合を推計して運賃改定できるように」と、その方向性を語りました。
現在の各地区の運賃改定状況は
▼改定率審査中=岩手県A、新潟A、東京特別区・武三、北九州
▼改定要否審査中=旭川B、姫路・東西播、名古屋
▼申請受付中=香川、岐阜、小豆島
となっています。
事前確定型変動運賃については、導入の検討会が始まりますが「公共交通機関としての役割を損なわないことが前提。雨が降ると膨大な金額になるような運賃は問題」との姿勢を示しています。
夏季セミナー 質疑・討論
松永書記長
セミナーの2日目には、松永次央書記長が、運動方針のたたき台となる、討議課題を提起しました。寄せられた意見を反映し、全自交労連の運動方針案が形づくられていきます。松永書記長は2日間のセミナーを振り返り「これからも皆さんと笑顔で議論しながら、答えをみつけていきたい」と語りました。
大阪地連・加藤書記長
大阪地連の加藤直人書記長は、タクシー運賃改定の審査基準について、国交省に要望。
賃金格差の解消分を盛り込むことなどを求めました。また定額の乗り放題について「利用者には好評だが、収支の実態は完全に赤字。事業者が疲弊して潰れた後で復活はできない。しっかり注視を」と要求。また大阪での経験を踏まえ「地域公共交通会議はメンバーが決まるまでが重要。決まってからでは遅い」と助言しました。
国交省の梅田調整官は「運賃改定が賃金に反映されているか、この先もしっかり見ていく」と回答。乗り放題については4条許可での本運行を始める前に、地域公共交通会議で収支を確認することの重要性を語りました。
宮城地本・嶺岸委員長
宮城地本の嶺岸明広委員長は、3月の地震被害に対して寄せられた見舞金について「被害を受けた組合員に有効に活用させていただきます。本当にありがとうございました」と語りました。
愛知地連・加藤副委員長
愛知地連の加藤勇作副委員長は、愛知と三重で、会社身売りが起きたことを報告。突然の廃業や身売りに対応するため、本部の支援・指導強化を求めました。長は2日間のセミナーを振り返り「これからも皆さんと笑顔で議論しながら、答えをみつけていきたい」と語りました。
2022春闘総括 103組合1万3千人が妥結 愛媛では1 乗務300 円の危険手当
2022春闘は、全自交労連本部が6月30日までに集約した状況で19地連本の103組合・支部、1万3355人の組合員が妥結に達しました。妥結率は組合数ベースで42%、組合員ベース84%となっています。
まだまだコロナ前の売上まで回復しない厳しい情勢において、賃金の改悪を許さず現状維持で妥結を確認したことは一つの大きな成果だと言えます。
一方、そんな中で、目立った改善を勝ち取った職場もあります。新たな集約分では秋田地連の秋田中央タクシー労組が危険手当の代替えとして一律3万円の期末手当を獲得。愛媛地本・立花分会では「コロナ危険手当」として1乗務300円を勝ち取りました。愛媛県の感染警戒レベルが「感染対策期」になっている期間に限った手当ですが、これまで感染の不安を抱えながら公共交通を支えてきたハイタク乗務員に対し、「危険手当」が実現したことは重要です。
また自動車教習所では、秋田地連の太平自動車学校職員組合が3度の団交を経て、昇給一律4千円を勝ち取り、愛知地連の愛自学労・東山分会はべア3千円を実現しました。
補助金・支援金労働者に分配を
今春闘では、燃料高騰が事業者側の言い分になっていた側面があります。しかし、ここにきて国の燃料高騰補助金制度が改善され、1月27日から5月末までの期間を合算すると最大で、タクシー1台当たり2万2695円の補助金が受け取れるようになりました。さらにこの補助は9月までは継続される予定です。
また、県や市町村からタクシー1台当たり数万円規模の支援金が何度も出ている例も少なくありません。国や自治体から、これだけの額の補助金・支援金を受け取り、一切労働者に分配しない行為が許されるのでしょうか。補助が出る名目は「公共交通の維持・存続」です。働き手の労働条件を改善しなければ、その目的は果たされません。
ましてや、全自交労連本部は国に、各地連本は自治体に、繰り返し繰り返しタクシー業界への支援を求めて要請行動を行ってきました。その成果もあって補助金や支援金が出ている以上、労働者には分配を求める権利があります。
まだ春闘交渉を闘っている職場が、しっかりと賃上げを求めることは言うに及ばず、すでに春闘を妥結した職場でも、臨時一時金などの形で適正な分配を求めて闘っていきましょう。
2022春闘妥結状況 第4弾(6月7日~6月30日までの本部集約分)
【北海道地連】
5.20 道南ハイヤー労組 賃金現状維持。7月に制服支給。
5.30 三和交通労組 賃金現状維持。車庫、駐車場を整備。Yシャツを支給。
6.3 北星タクシー労組 賃金現状維持。社内設備の補修。Yシャツの支給。
6.7 さくら交通労組 賃金現状維持。夏期一時金支給。
6.10 寿ハイヤー労組 賃金現状維持。Yシャツの支給。夏期一時金支給。
【秋田地連】
3.31 秋田港交通労組 賃金現状維持。
4.2 秋田合同タクシー労組 定昇を廃止、オール歩合制へ移行。基本賃率は正規50%、嘱託・継続雇用48.5%、その他現状維持(中退金あり)。
4.6 秋田中央タクシー労組 賃率現状維持、危険手当の代替えとして一律3万円の期末手当。手洗いうがい促進策として休憩室に湯沸かし器設置、お客様用に除菌アルコール搭載。
4.30 湖東タクシー労組 賃金現状維持、電話当番手当3000円、定年制なし。
4.30 国際労組 賃金現状維持。
5.10 キングタクシー労組 賃金現状維持。
【山形地本】
3.14 辻支部 賃金現状維持。
3.30 今村支部 賃金現状維持。
4.15 赤湯支部 賃金現状維持。マスク一箱支給。
5.15 酒田第一支部 賃金現状維持。一時金1万円。
不明 酒田合同支部 賃金現状維持。マスク一箱支給。
不明 酒田観光支部 賃金現状維持。
【福島地本】
5.20 白河観光交通分会 賃金現状維持。県統一交渉を解消。
5.21 白虎タクシー分会 賃金現状維持。県統一交渉を解消。
【東京地連】
4.14 三交労美玉支部 賃金現状維持。
4.25 東洋交通労組 賃金現状維持。組合が解決一時金を獲得し、組合員に分配。分配基準では「公共交通のタクシーを守ること」を重視し、組合在籍1年以上で2万円、無事故・無違反・無苦情で年間営収700万円以上なら5万円など。全自交争議支援のうどんかそうめんを全員に配布。
【新潟地連】
6.29 柏崎交通労組 定昇500円。夏期一時金7万円、インフル注射補助1500円。
【大阪地連】
6.18 新大阪タクシー労組 賃金現状維持。
【兵庫地連】
6.10 昭和交通労組 賃金現状維持。内容はA型で年功給・隔勤1乗務当たり77円、足切り額33万6000円。一時金は夏期、冬期で各24万8000円。
【愛媛地本】
3.24 近鉄東予分会 賃金現状維持。春闘解決金5千円。無事故手当半期5千円(年間1万円)。
4.10 立花分会賃金現状維持。コロナ危険手当1乗務300円。無事故手当年間1万円。
5.9 松山分会 賃金現状維持。
【高知地本】
6.23 県交ハイヤー支部 賃金現状維持。
◆自動車教習所◆
【秋田地連】
3.1 羽後自教労組 賃上げ1000円~3000円、夏季・冬季一時金は別途協議。
4.11 太平自教労組 昇給一律4000円。
「一人運転代行」という新サービスが登場しました。通常の運転代行は客車を運転するドライバーと随伴車のドライバーが2人1組で行動しますが、客車に積み込める折り畳み式電動バイクを移動手段に使うことで、随伴車をなくし、一人で運転代行を行うというサービスです。価格破壊を起こし、地方でのタクシー需要を奪う可能性が懸念されます。
このサービス、実は、国が定めた運転代行業の基準には当てはまらず「運行管理業」や「請負」に区分されるため、二種免許が不要で、規制のルールがほとんどありません。法の抜け穴をつくような形で登場しました。
はじめたのは、和歌山県にある「mykeeper」(マイキーパー?)という会社で、専用保険やシステム利用料を月3万5000円〜の料金で提供するというビジネスモデル。実際にどこまで広がるか、警戒しておく必要があります。