全自交労連は7月12日・13日の2日間、静岡県伊東市で統合後、最初の夏季労働セミナーを開き、全国から153名の仲間が参加しました。第1日目に交運労協の慶島事務局次長、ITF〔国際運輸労連〕の浦田政策部長、桜美林大学の戸崎教授、国交省の大辻旅客課長の4人が講演しました。第2日目の全体討議では、春闘の中間まとめを提起するとともに、①乗務員の感染防止の徹底と自治体への要請行動強化、②変動運賃制の導入反対、③白タク・ライドシェア合法化阻止等を提起しました。活発な討論を行った後、団結ガンバロウを三唱し、成功裏にセミナーを終了しました。
コロナ危機突破とライドシェア導入阻止を誓う
セミナーの第1日目は、佐藤正男副委員長が開会の挨拶を行い、座長に中部(静岡)の仲野謙治さんと関東(東京)の本木弘さんを選出した後、伊藤実中央執行委員長が挨拶し、「今日から東京は4度目の緊急事態宣言となった。長期化するコロナの逆風に負けず、産業を守る運動を強めよう」と訴えるとともに、「期間限定・地域限定の対策には限界がある」としてタクシー事業法の必要性を述べました。また、春闘については「慰労金等の獲得もあり積極的な交渉で労働条件が守られている」と評価しました。そして、ライドシェア導入阻止の運動強化と総選挙での勝利を呼びかけました。
その後、交運労協の慶島譲治事務局次が講演し「交通産業を事業者任せにする日本の常識は世界の非常識だ」と批判。公共交通の公共財としての価値を強調しました。次にITFの浦田誠政策部長が講演し、ライドシェアをめぐる世界の動きを報告。「欧州ではギグ労働を保護する裁判所の判断が広がっている。ギグ労働者の組合との労働協約の締結も始まった」と述べました。そして、桜美林大学の戸崎肇教授が「ウィズコロナ時代の交通産業」と題して講演しました。
その後、国土交通省の大辻統旅客課長が、①タクシー特措法の施行状況、②タクシー運賃、③ライドシェア、④コロナの影響と対応について講演。変動運賃制(ダイナミック・プライシング)に対する反対意見や中小事業者への支援等、質問を受けました。
第2日目は、松永次央書記長が討議課題を提案し、2021春闘の中間まとめを行いました。全体討議で討論を行った後、藤野輝一副委員長が閉会挨拶を行い、最後にガンバロウを三唱してセミナーを締めました。
講演① 交運労協・慶島譲治事務局次長
公共交通は﹁公共財﹂の価値を体現
【講演要旨】
「コロナ禍の交通運輸産業の現状と課題」の資料に沿って進めます。
新型コロナによる雇用危機の特徴は、負の影響が特定の産業に集中していること。直撃されている産業こそが交通運輸・観光産業だ。タクシーの輸送状況を大変厳しい。交運労協として6次にわたる緊急要請を国交省・厚労省・内閣府・野党に行ってきた。
政策要望の柱は、①雇用調整助成金特例措置の延長、②固定資産税、自動車重量税や社会保険料など公租公課の負担軽減、③地方創成臨時交付金の地域公共交通支援への積極的活用等だ。雇調金特例は現時点で9月末まで延長することが決まった。
また、「社会の持続可能性を見据えた交通産業の将来像」についても提言を策定している。交通産業は独立採算とする「日本の常識」は「世界の非常識」だ。コロナ禍で公共交通機関は事業継続を要請されたが、これは「公共財」としての交通の価値を体現している。
声を大にして訴えるべきことは、コロナ禍で移動自体が悪いとする偏見を無くし、感染対策している事を理解してもらうこと。GOTOトラベルは一過性のものではなく長期的な設計が必要だ。
講演② ITF・浦田誠政策部長
ライドシェア阻止の成否は力関係にある
【講演要旨】
「ライドシェアをめぐる世界の情勢と日本の課題」をテーマにお話しします。
ライドシェアをどのように定義するか?最初は「専用のアプリを介して一般の運転手が自家用車を使い乗客を運ぶ違法なサービス」として始まったが、米国ではほぼ全ての州で後付けで法律ができて合法となった。しかし、欧州では違う道を辿った。欧州の司法裁判所がウーバーは運輸業と判断し、ライドシェアが違法と確定した。この違いは反対運動やタクシー労組の存在の違いで「バランス・オブ・パワー」の違いである。
これまでの交通運輸関係の規制緩和を見てきたが、国が法律を作って進めてきた。しかし、ライドシェアはウーバーという一民間企業がタクシー産業に殴り込みをかけ、違法性を知りながら事業を広め、その後で法律を自分たちに都合の良いように作ってきた。これは、民間企業による規制緩和であり、前代未聞。繰り返してはならない。
その特徴は、運転手は個人事業主扱いで身元もわからない。営業エリアもなくタクシーより安いダンピング運賃や変動運賃。アプリのアルゴリズムで労務管理し、一方的に解雇する等にある。
欧州では事業者と労組が反対し、ライドシェアを米国のようには拡大させなかった。日本ではどうか。ウーバーが「違法なライドシェアに反対します」とい広告を出した。国交省もライドシェアについて「慎重な検討が必要」と言っていたのが最近では「認める訳にはいかない」と言うようになった。この変化を作ってきたのも日本の反対運動の成果だ。
ウーバーは日本ではタクシーと組んでダイナミック・プライシングを入れて儲けようとする危険性があり、警戒しなければならない。統合した力で頑張っていこう。
講演③ 桜美林大学 戸崎肇教授
高齢化、環境問題、地方衰退問題でタクシーは重要
コロナ禍は地方経済の影響が大きい。インバウンド頼みではダメで、持続的な観光政策が必要だ。GOTOトラベルについては、黙っていても旅行は増えるのでキャンペーンによる間接的な支援より、交通に直接支援した方が良いと考えている。
交通運輸産業の現状は大変厳しい経営環境にある。ワクチンの優先接種がされなかった事はエッセンシャルワーカーと見なされていない証拠。
公共の観点から支援の対象とすべきだ。公共交通は公共性が高く収益性が低い。だから国の補助が必要。タクシーは「車の社会的共有」であり24時間営業化に適している。
高齢化、環境問題、地方の衰退を考えるとタクシーの重要性は増している。また、公正競争の環境も重要だ。ウーバーは安全コストをかけない。自動運転の導入も全てを置き換えることはできない。
講演④ 国土交通省旅客課 大辻統課長
タクシーを巡る最近の情勢
今回は、①タクシー特措法の施行状況、②タクシー運賃について、③バリアフリー対応、④ライドシェアについて、⑤新型コロナ感染症の影響をその対応についてお話ししたい。
タクシーの現状については、輸送人員も収入も右肩下がりとなっている。
改正タクシー特措法の施行状況については、効果として、日車営収や時間当たり賃金の改善が見られるが課題もある。①減車等の供給過剰対策は進んだが需要の減少も進み十分な効果が発揮されていない、②需要喚起策を実施するも、需要増加にはなっていない、③コロナの影響により需要が急減してしまった。そのため、引き続きタクシー特措法を運用し、今後は具体的に3つの対応を推進していく。①アプリを活用したタクシー需要の新規開拓として、一括低額運賃や変動迎車料金の普及。①高性能な車内の空気清浄機を導入し安心して乗ってもらう環境整備。③コロナの影響を考慮し、臨時休車の制度を導入等、柔軟に対応している。
特定地域は減っていて準特定地域に落ち着いている。今年度中に特定地域は2地域に減っていく。車両の減少も進み、法律の目的は達成していると思っている。
運賃改定については東京の運賃改定を求める声もあるが、コロナ禍で厳しい状況だ。運賃改定に当たっては運転者の労働条件改善を講じなさいと通達した。
2月の規制改革推進会議でタクシーの規制見直しが議題に上がった。ソフトメーターの導入や変動運賃制度の導入が議論され、6月に規制改革実施計画が閣議決定された。
ライドシェアについては、安全面で問題があり、絶対に認められない。
コロナの関係では、輸送人員が大幅に減少している。雇用調整助成金も特例措置が延長されているが、今後も特例延長を訴えていく。
感染防止では、空気清浄機導入費用の2分の1を補助している。自治体に協調補助を働きかけている。また、地方創成交付金からタクシー事業者支援をお願いしている。ワクチン接種の移動にバス・タクシーを活用するよう働きかけ、4割の自治体が活用した。
春闘まとめ・セミナー討議課題の提起と討論
自治体にタクシー支援要請強化、変動運賃制度反対
2021春闘はコロナの影響で大変な状況下で闘われ、積極的交渉に挑んだ仲間に敬意を表する。現状維持の妥結が多いが、賃金引下げ圧力をはね返した結果でもあり、中には一時金確保し、コロナ禍での慰労金等を獲得した組合もある。かつてない営収低下の中で労働条件を守り抜いた春闘として総括したい。
現在、コロナ対応が運動の柱になっており、自治体へのタクシー支援要請を通して、支援策を実現させてきた。今後とも積極的に要請行動を展開していこう。
ダイナミック・プライシングは公共交通としてあるタクシーにふさわしくない。導入に反対しよう。
【質疑討論】
●大阪地連・橋口さん
職場の仲間がコロナに感染する事例が増えている。労働災害の適用を受けられるようにする。
また、大阪の遠距離割引で事業者団体と意見交換した。「コロナ禍でこそ遠割廃止」と訴えている。
●兵庫地連・成田さん
京都や兵庫では自治体の長に直接タクシー支援を要請してきた。タクシーの声を届けることが重要だ。首長も「現場の声を聞きたい」と言っており、こうした運動を全国で取り組んでいこう。
●東京地連・大和田さん
統合した組合全体の「2021春闘中間まとめ」を提起してくれたことに感謝する。私たちは中小の集まりですので、特にダイナミック・プライシングについては懸念している。実施する方向で進んでいけば設備投資の面でついていけない。今でも相当厳しい経営環境にある。これによりさらに新たなステージへとなれば、中小はふるいにかけられることになっていく。全自交として明確に反対していくべき。
【書記長答弁】
労働者として、ダイナミック・プライシング(変動運賃制度)には反対だ。利用者にも受け入れられない。
講師への質問
【浦田政策部長への質問】
●石川ハイタク・岩田さん
アルゴリズムの話があったが、これにより運転が荒いとかお客からのクレームで自動的に運転者が排除されることが心配。
〇浦田氏・回答
アプリ配車により個人情報を収集されるが、とこまで使わせるのか、会社を辞めた時に情報を返して貰えるのかを問い、労務管理の強化をやめされることが必要。
【慶島事務局次長への質問】
●東京地連・沢頭さん
公共交通の「日本の常識」は「世界の非常識」との話があったが、世界の成功例や自治体の補助の事例を教えてほしい。
〇慶島氏・回答
成功例として、自前でやっているのはスイスの鉄道だけ。駅や線路を自治体が所有し、事業者は運行のみとする「上下分離」が一般的だ。鉄道は40%がインフラですがタクシーは70%が人件費と燃料費なので「公有民営方式」が成り立つのかどうか。公租公課の免除とかも考えられる。
【国交省・大辻氏への質問】
●北海道地連・鈴木さん
特措法の効果で運転者減少で日車営収が増えたのではないか。特措法では不十分。色覚異常者の対策もお願いする。
〇大辻氏・回答
魅力ある職場にする必要がある。公共交通の役割を果たせなくなってしまう危機感はある。色覚異常者の指摘は今後に活かしたい。
●兵庫地連・成田さん
空気清浄機の自治体補助を勝ち取ったが、国の補助と協調して補助を受けられるようにしてほしい。
〇大辻氏・回答
2月に導入意向を聞いたが、予算の執行状況を見ながら今の指摘を受け止めたい。
●東京地連・菊地さん
ダイナミック・プライシングについて質問する。公共交通であるタクシーは誰でも安心して利用できるべき。困ったときに運賃を上げるのがなぜ新たな需要を作るのか。反対である。
〇大辻氏・回答
変動運賃制はタクシーのサービス多様化の位置付け。幅は「上が2割、下が1割」で考えている。デイサービス移動でも上がるのかとの指摘もある。それも含めて制度設計したい。導入するかどうかは地域の事業者の判断となる。
●東京地連・沢頭さん
公共交通維持・確保でライドシェアの話が出たのは地方の過疎化が進んだ頃からだ。ライドシェアなしで地域交通を守るにはタクシー運転者確保の賃上げと運賃改定が必要。運賃改定は考えているのか。
○大辻氏・回答
地方部ではタクシーの担い手が減っている。交通空白地域では自家用有償制度でやっていくが、そこに至らないようにしたい。運賃改定が労働条件に反映するよう通達も出したところだ。
●東京地連・濱田さん
現在、電子決済が6割・7割だ。手数料も取られるが現行運賃にはそれは含まれていない。このため収益が落ちている。電子決済の機器や空気清浄機導入にもお金がかかっている。このままでは賃下げするしか会社の存続がないと言われている。手数料を下げるとか運賃を上げてもらわないとやっていけない。
〇大辻氏・回答
原価としてキャッシュレスに係る費用は現行の運賃では見ていないとの指摘もあり、それを算定して運賃改定する事はあり得る。「コロナで厳しいから運賃改定」というのは利用者の理解は得られない。
「交通の安全と労働を考える市民会議」は6月10日、雇用によらない働き方をテーマにオンラインシンポを開き、全国に配信しました。
木下徹郎弁護士が司会を務め、宮里邦雄弁護士が主催者挨拶し「コロナ危機で多くの雇用が奪われ、ギグワーカーが増加している。雇用によらない働き方は全て自己責任で働いている。諸外国ではこうした労働者を保護する判決が相次いで出されているが、英国の先進的事例を学ぶ機会にしたい」と述べました。続いて、木下弁護士がウーバー運転者を就労者と認める判断を示したイギリス最高裁判決のポイントと具体的内容を説明しました。
その後、ジェームズ・ファーラーさんがイギリスでの闘いを報告しました。
ファーラーさんはウーバー運転者として働きだしたときに、客に襲われたことがきっかけで、ひどい対応をしたウーバーに不信感を持つとともに、ウーバーが「運送業者ではない」と主張し、運転者にも客にも責任を負わないことを痛感したと語りました。
イギリスでウーバードライバーを
組織して闘うファーラーさん
ギグエコノミーの自由は幻想にすぎない
忍耐強く闘い信頼を勝ち取ってきた
また、最低賃金すら稼げないときもあり、「ギグエコノミーの自由は幻想にすぎない」と訴えました。そしてウーバーを相手取って裁判闘争を開始し、「私たちは裁判と組織化を忍耐強く闘って信頼を勝ち取ってきた」と述べました。
その後、ITFの浦田誠さんがライドシェアを巡る世界の動きを報告。①欧州で広がる「ギグ労働は請負ではない」との司法判断、②コロナ禍で深刻化するライドシェアの運転者不足、③ウーバーの税金逃れについて説明しました。
質疑討論では、川上資人弁護士と菅俊治弁護士が、団体交渉を拒否する日本のウーバーイーツと闘うユニオンの取り組みを報告し、ギグワーカーを組合に組織化する方法について議論しました。
木下弁護士は「今日はギグワーカーが力を合わせて社会を変える可能性が感じられた」とオンラインシンポの感想を述べました。
最後に山口広弁護士が閉会の挨拶を述べ、参加者160人、弁護士37人、大学関係者25人、報道・出版10人の参加を報告して終了しました。